医療機関・薬局・介護事業者への新型コロナ関連の補助金
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの事業者が感染対策を講じています。
なかでも、医療機関、薬局、介護事業者は、コロナ対策が命と健康に直結するため、どの業界よりも確実な対策が求められ、そのコストが経営を圧迫しています。
そのため、国や自治体は、医療機関、薬局、介護事業者を対象に「補助金」を交付して支援しています。この記事では、これらの制度を利用するための条件や補助額などを紹介しています。
1.医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援
厚生労働省の「医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援」は、コロナ疑いの患者とその他の患者を混在させない措置などを講じた医療機関などに、その費用を補助をします。
対象となる対策、事業者
同支援の対象となる対策は、コロナ感染疑い患者とその他の患者が混在しない動線確保など院内での感染拡大を防ぐための取り組みです。
例えば、次のような対策を講じると費用が補助されます。
●コロナ感染疑い患者とその他の患者を混在させない動線をつくるためのレイアウトの変更や診療順の工夫
●共通して触れる部分の、定期的かつ頻繁な清拭や消毒
●待合室の混雑を回避するための、予約診療の拡大、整理券の配布、患者への周知、患者への協力要請
●インターネットや電話などの情報通信機器を用いた診療体制の構築
●感染防止のために個人防護具などの購入
●医療従事者向けの院内感染防止対策のための研修や健康管理
●感染拡大を防ぎながら、地域で求められる医療を提供するための診療体制の確保
これらの対策を実施するために、清掃委託、洗濯委託、検査委託、寝具リース、感染性廃棄物処理、個人防護具の購入などを行ったとき、その費用が補助されます。
同支援を受けることができる事業者は、コロナ対策として上記の対応を取っている病院(医科、歯科)、診療所(医科、歯科)、薬局、訪問看護ステーション、助産所です。
補助額
同支援の補助額の上限は、機関によって異なります。
<「医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援」の補助額の上限>
病院(医科、歯科):200万円+5万円×病床数
有床診療所(医科、歯科):200万円
無床診療所(医科、歯科):100万円
薬局、訪問看護ステーション、助産所:70万円
申請は国保連へ
同支援を受けるには、「申請書」と「事業計画書」を作成して、各都道府県の「国民健康保険団体連合会」(以下、国保連)に、オンラインで申請します。
この申請は都道府県に回され、都道府県が補助金を交付するかどうか決めます。
補助金は、国保連から医療機関などに振り込まれます。
注意点
同支援を受けるうえでの注意点は次のとおりです。
・感染拡大を防ぎながら、地域で求められる医療を提供するために診療体制を確保している場合であっても、以前から勤務している人や通常の医療を提供している人の人件費は、補助金の対象外になります
・「保険医療機関、保険薬局、指定訪問看護事業者」以外の事業者は対象外です
・次の章で紹介する「新型コロナウイルス感染症を疑う患者の受入れのための救急・周産期・小児医療体制確保事業」の支援金を受けている医療機関などは対象外となります(重複受給はできません)
・補助の対象となる費用は、2020年4月1日から2021年3月31日までに発生したものです
・上記の期間中の費用であれば、支出済みでも、購入前の予定額(概算額)でも対象になります
・概算額で申請した場合、事後に実績報告が必要になります
・概算額で申請して事後に実績報告をした結果、同支援の対象外の費用が含まれていた場合、補助金を返還することになります
・申請は1回のみです
・コロナ感染者を受け入れていなくても、「コロナ感染疑い患者とその他の患者が混在しない動線確保など院内での感染拡大を防ぐための取り組み」をしていれば対象になります
2.新型コロナウイルス感染症を疑う患者の受入れのための救急・周産期・小児医療体制確保事業
厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症を疑う患者の受入れのための救急・周産期・小児医療体制確保事業」は、コロナ疑いの患者を外来や入院で受け入れる医療機関が、院内感染防止策を講じたときに支援金を支給する制度です。
対象となる対策、事業者
医療体制確保事業の対象となるのは、院内感染防止対策です。
次の設備などを購入したとき、その費用が支援金として給付されます。
簡易陰圧装置、簡易ベッド、簡易診察室、HEPAフィルター付き空気清浄機、HEPAフィルター付きパーテーション、個人防護具、消毒経費など
医療体制確保事業を利用できるのは、外来や入院でコロナ感染疑い患者を受け入れる「命救急センター、二次救急医療機関、周産期母子医療センター、小児中核病院、小児地域医療センター、小児地域支援病院」などです。
補助額
医療体制確保事業の支援金の額は、病床数によって異なります。
<医療体制確保事業の支援金の額>
99床以下:2,000万円
100床以上:3,000万円
100床ごとに1,000万円を追加
コロナの感染患者の入院を受け入れる医療機関には、さらに1,000万円が加算されます。
注意点
医療体制確保事業を受ける注意点は次のとおりです。
・医療体制確保事業を受ける医療機関は、「新型コロナウイルス感染症を疑う患者を診療する医療機関」として都道府県に登録されなければなりません
・対象となる医療機関は、救急隊からコロナ感染疑いの受け入れ要請があった場合、一時的でも患者を受け入れなければなりません
・受け入れた患者に入院加療が必要になった場合は、必ずしも自院に入院させる必要はなく、他院に転院搬送することができます
・支援金の対象となるのは「感染疑いの患者を受け入れるために必要なもの」です
・前章で紹介した「医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援」の支援金を受けている医療機関などは対象外となります(重複受給はできません)
3.新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業
厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」は、コロナ禍のなか医療機関などで働く医療従事者や職員たちに、感謝の気持ちとして慰労金を給付する制度です。
対象となる人と慰労金の額
同慰労金の対象となる人たちと給付額は次のとおりです。
●新型コロナウイルス感染症に対する医療提供において、都道府県から役割を設定された医療機関などに勤務して患者に接している医療従事者や職員、派遣労働者、業務委託受託者の従事者が慰労金の対象となります。
・実際に感染患者の診療を行った医療機関の人たち:1人20万円
・上記以外の人たち:1人10万円
●「その他の病院や診療所、訪問看護ステーション、助産所」に勤務して、患者と接する医療従事者や職員:1人5万円
「都道府県から役割を設定された医療機関など」は次のとおりです。
重点医療機関、感染症指定医療機関、都道府県が新型コロナウイルス感染症患者の入院受入れを割り当てた医療機関、帰国者・接触者外来を設置する医療機関、地域外来・検査センター、宿泊療養や自宅療養を行う場合の感染症患者に対するフォローアップ業務や受入施設での対応をする機関
「その他の病院や診療所、訪問看護ステーション、助産所」は、「都道府県から役割を設定された医療機関など」以外の機関となります。
その他の条件として、慰労金の対象者は、都道府県で1例目の感染患者が発生した日から、2020年6月30日までの間に、10日以上勤務している必要があります。
慰労金の受け取り方法
同慰労金は、医療従事者や職員などが受け取りますが、申請は医療機関が行います。
医療機関は、自院内の対象者を特定して、その全員から「慰労金の代理申請・受領の委任状」を集めます。
続いて医療機関は、申請書を作成して、オンラインで各都道府県の国保連に提出します。
申請書は都道府県に回され、都道府県が給付を決定します。
決定後、国保連から各医療機関に同慰労金が全職員分振り込まれます。
同慰労金を受け取った医療機関は、対象者に給付します。
注意点
同慰労金を受けるうえでの注意点は次のとおりです。
・同慰労金は非課税になるので、医療機関側は源泉徴収しないようにしてください
・派遣労働者や業務委託受託者の従事者に対しては、医療機関から給付しても、派遣会社・受託会社を経由して給付しても構いません
・医療機関は同慰労金を給付し終えたら、1カ月以内に都道府県に対し実績報告をしなければなりません。実績報告は、対象者への振込記録や受領簿などで行ないます
4.新型コロナウイルス感染症医療提供体制緊急整備事業(東京都のみ)
東京都の「新型コロナウイルス感染症医療提供体制緊急整備事業」は、感染患者や感染が疑われる患者を受け入れる体制を整備する都内の医療機関を支援する制度です。
緊急整備事業には6事業があり、それぞれの特徴は次のとおりです。
いずれも対象は都内にある医療機関です。
(1)外来診療体制等確保支援事業
「新型コロナ外来」を設置した医療機関や、地区の医師会が設置する地域外来・検査センターに、1日12,700~197,000円の体制確保料を支給します。
(2)病床確保支援事業
入院が必要な感染患者を受け入れる医療機関に、1日1床16,000~97,000円を支給します。消毒経費も別途支給します。
(3)重症患者等受入体制確保支援事業
重篤・重症の感染患者を治療する集中治療室の医療従事者を確保するための経費を補助する目的で、医療機関に医師1人当たり1日31,700円、その他の医療従事者1人当たり1日10,900円を支給します。
(4)医療従事者特殊勤務手当支援事業
感染患者の診察や治療に携わる医療従事者に、特殊勤務手当を支給する医療機関に対し、医療従事者1人1日当たり3,000円を支給します。
(5)医療従事者宿泊先確保支援事業
感染患者の診察や治療に携わる医療従事者のためにホテルや住居を借り上げた医療機関に対し、その費用の補助として1部屋当たり1日13,100円を支給します。
(6)医療施設・設備整備費補助事業
医療機関や地区医師会が設置する地域外来・検査センターが、コロナ対策で次の機器などを購入したとき、その費用を補助します。
●入院施設の新設、増設の初度設備に必要な消耗品や備品購入費133,000円/床
●HEPAフィルター付空気清浄機(陰圧対応可能なものに限る)905,000円/施設
●HEPAフィルター付パーテーション205,000円/台
●人工呼吸器及び付帯する備品5,000,000円/台
●個人防護具3,600円/人
●簡易陰圧装置4,320,000円/床
●簡易ベッド51,400円/台
●体外式膜型人工肺21,000,000円/台
●簡易診察室及び付帯する備品:実費額
●簡易病室及び付帯する備品:実費額
●設置に係る工事費又は工事請負費:実費額
5.新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(介護分)
厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(介護分)」は、感染症対策を講じた介護事業者や介護職員を支援する制度です。
介護支援事業は次の4種類あります。
(1)感染症対策を徹底した上での介護サービス提供支援事業
すべての介護事業所に対し、感染症対策を徹底したことで増えた費用の一部を補助します。利用者や介護職員が感染していても、感染していなくても、対象になります。
「増えた費用」とは、例えば、衛生用品等の感染症対策に要する物品購入、外部専門家による研修、感染発生時対応に使う多機能型簡易居室の設置、面会室の改修費、消毒・清掃費用などです。
(2)介護サービス事業所・施設等に勤務する職員に対する慰労金の支給事業
介護事業所に勤務していて、利用者と接する職員に対し、1人5万円または20万円の慰労金を給付します。
(3)在宅サービス事業所による利用者への再開支援への助成事業
在宅サービスの利用を休止している利用者に対し、利用再開の支援を行った在宅サービス事業者に対し助成します。
(4)在宅サービス事業所における環境整備への助成事業
次の物品を購入して3密(密集、密接、密閉)を回避しながらサービスを提供している在宅サービス事業所に、その費用を助成します。
長机、飛沫防止パネル、換気設備、自転車購入費またはリース費用、タブレットなどのICT機器の購入費またはリース費用(通信費用を除く)、感染防止のための内装改修
まとめ ~職員たちのためにも取りこぼしなく~
国も自治体も、そして国民も住民も、コロナ対策では医療・介護関係者に感謝しています。補助金や慰労金などの支援策は、その感謝の1つといえます。
対象となる医療機関、薬局、介護事業所は、「取りこぼしなく」これらの補助金などを受け取ってください。補助金などだけでは、増えたコストをすべて埋めることはできないと思いますが、経営安定化の一助になるはずです。
また慰労金は、医療従事者や職員の「収入増」になるので、経営者や事務の責任者は、それらの人たちのためにも申請を忘れないようにしたいものです。
医療・介護の経営の安定と医療従事者や職員の生活の安定は、国民の願いでもありますので、補助金に関する情報をしっかり入手するようにしてください。