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日本政策金融公庫の劣後ローンを分かりやすく解説

起業家バンク事務局

新型コロナ対策資本性劣後ローンは、2020年8月3日に運用が開始された制度です。「資本性劣後ローン」という言葉は馴染みが無いと思います。少なくとも聞いただけで意味が分かるという方はかなり少ないのではないでしょうか?

「劣後ローン」の「劣後」というのは優先順位で劣後するという意味です。つまり、いくつかの融資を受けている場合に他の融資よりも返済の優先順位が劣後する、順位が劣るという意味です。万が一融資を受けている会社が倒産してしまった場合には融資している金融機関は債権回収に努めますが、その時の順位としては他の融資から先に回収され、余りがあれば残ったものから返済を受けるという意味です。このような意味があるため、融資でありながら、出資に近い性質があるとも言えます
 

新型コロナ対策資本性劣後ローンの概要

新型コロナ対策「資本性劣後ローン」は期間が3つから選択可能です。それぞれ5年1ヶ月、10年、20年という期間を選択できるのですが、資本性劣後ローンは、返済期日まで一切返済をしなくても良いという仕組みになっています。利息は毎月支払いますが、元金の返済は返済期日まで返済しなくてもよく、期日が来たら一括返済する融資です。例えば、20年の期間を選択した場合は20年間借りたまま元金は一切返済をしなくてもいいので、大変お得な制度です。このように制度としては融資ですが、出資のような性質の資金ということになります。実際、この融資は金融機関による評価でも「負債」であるにもかかわらず、「自己資本」とみなされます。このように新型コロナ対策資本性劣後ローンは資本性があって返済が劣後する融資ということで「資本性劣後ローン」と呼ばれます。
 

資本性劣後ローンのメリット

上述のように金融機関から自己資本とみなされ借入期間は元金を返済する必要のない本制度は大変お得ですが、具体的なメリットについて見ていきましょう。

メリット① 期日一括弁済である

先程ご説明したように5年1ヶ月、10年、20年という期間を選択できるのですが、この期間は利息の支払いのみで元金の返済は一切しなくていいので、調達した資金を借入期間の間、100%運用できるということが大きなメリットです。一般的な長期融資は分割弁済ですので、融資を受けてもその月、もしくは翌月から元金の返済がスタートしますので、借りたお金を100%借入期間中に使い続けられるわけではありませんが、この点、資本性劣後ローンは100%運用できる点でメリットは大きいと言えます。

メリット② 資本性である

資本性劣後ローンは負債でありながら、金融機関からの評価は資本とみなされる点は大きなメリットです。例えば、自己資本を増やそうと思ったら通常は増資をするか毎期ごとに利益を積み上げていくしかありません。借金をいくら増やしても借金は他人資本ですので、自己資本は増えません。ところが、この資本性劣後ローンは通常の融資と同じく返済の必要のある負債でありながら、評価が自己資本になるという特殊性を持っています。これによって、自己資本比率が向上するなど財務の評価が良くなります。それによって民間の金融機関も融資をしやすくなり、民間の融資の呼び水のような効果が期待できます

メリット③無担保・無保証で利用できる

通常の融資であれば、新規の融資は不動産などの担保の供与が必要ですが、資本性劣後ローンは無担保・無保証で利用できます。上記のような大きなメリットを享受できる魅力的な融資制度でありながら、無担保・無保証というのは大変お得です。

資本性劣後ローンのデメリット

大きなメリットがある制度ですので、ぜひとも活用したいと思う会社が多いと思いますが、資本性劣後ローンの利用はハードルが高いです。貸す側からすれば大きなリスクを伴う融資ですので、借り手を選びます。新型コロナに関連する融資制度は他にもいくつかあり、融資審査のハードルが低いものが多いのですが、資本性劣後ローンは簡単ではありません。

運用開始して日の浅い制度ですので、審査の難易度はまだ明確に分かりませんが、以前存在した資本性劣後ローンの制度の難易度を考慮するとハードルが高いと予想されます。企業規模や経営管理が重視され、選ばれた会社でないと利用できないと考えておきましょう。

 

新型コロナ対策資本性劣後ローンの具体的な内容

それでは具体的に新型コロナ対策資本性劣後ローンの概要を確認したいと思います。

貸付対象者

対象者の前提としては、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者です。その事業者のうち以下の①~③のいずれかに該当する事業者のみが対象です。①及び②と比較して利用するハードルが低く、多くの会社が③の要件で利用することを検討すると予想されます

①J-Startupに選定又は中小機構が出資する投資ファンドから出資を受けた事業者
J-Startupとは、経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成プログラムです。

②再生支援協議会の関与のもとで事業再生を行う事業者
再生支援協議会とは、中小企業の事業再生に向けた取り組みを支援する公的機関です。

③事業計画を策定し、民間金融機関等による協調支援を受ける事業者
協調支援とは、日本政策金融公庫や商工中金といった政府系の金融機関が資本性劣後ローンを融資するとともに民間の金融機関が協調して融資をすることです。この制度が資本性劣後ローンの融資により自己資本比率が向上するなど財務の評価が良くなるので、民間の金融機関も融資をしやすくなることを狙った制度であることが表れています。逆に言えば、日本政策金融公庫や商工中金といった政府系金融機関からの融資のみを希望する場合は資本性劣後ローンは使えず、いわゆる新型コロナ特別貸付などの別の融資制度を使うことになります

また、「事業計画を策定」に関して、日本政策金融公庫の国民生活事業を利用する場合は、原則認定支援機関の経営指導を受けて「事業計画書」を策定する必要があります。認定支援機関については経済産業省のウェブサイトで確認できますが、税理士や中小企業診断士などがなることが一般的です。

申請に必要な書類

申請にあたっては専用の事業計画書を提出する必要がありますが、上述の貸付対象者の①〜③によって書式が異なります。

貸付対象者①及び②において必要になる事業計画書

・事業概要
・新型コロナウイルスの影響
・新型コロナウイルスを踏まえた今後の見込み
・必要な資金と内訳
・業績の推移と今後の計画
これらの中でも、業績の推移と今後の計画が最も重要ですので、具体的な根拠に基づいた計画書を作成しましょう。

貸付対象者③において必要となる事業計画書

①及び②と比較して利用するハードルが低く、多くの会社が③の要件で利用することを検討すると予想されますが、提出書類は①、②よりも多く要求されています

・新型コロナウイルスの影響
・今後の見込み、課題と具体策
・借入金、社債の期末残高の推移
・協調金融機関、支援時期
・定量目標、行動計画
・認定支援機関の所見
・業績の推移と今後の計画

貸付限度額

貸付限度額は政府系金融機関によって下記のように決まっています。
・日本政策金融公庫(国民生活事業)=7,200万円
・日本政策金融公庫(中小事業)=7.2億円
・商工中金=7.2億円
これらは別枠ですので、例えばすでに新型コロナウイルスの特別貸付で日本政策金融公庫(国民生活事業)から融資を受けている場合でも、資本性劣後ローンを別枠で利用できます

貸付期間

貸付期間は5年1ヶ月、10年、20年の3つの期間から選択できます。そして、返済は期日に一括返済となります。また、通常資本性劣後ローンは繰り上げ返済できないのですが、新型コロナ対策資本性劣後ローンは借入から5年を超えれば期限前弁済(繰り上げ返済)が可能となっています

貸付利率

貸付利率は当初3年間は一律で、4年目以降は直近決算の業績によって変動します。また、融資を受ける政府系金融機関によっても異なります。具体的には以下のようになります。

日本政策金融公庫(国民生活事業)

当初3年間及び4年目以降赤字→1.05%
4年目以降黒字(5年1ヶ月、10年)→3.40%
4年目以降黒字(20年)→4.80%

日本政策金融公庫(中小事業)及び商工中金

当初3年間及び4年目以降赤字→0.50%
4年目以降黒字(5年1ヶ月、10年)→2.60%
4年目以降黒字(20年)→2.95%

 

このように、
当初3年間は通常の融資と同程度ですが、4年目以降に黒字になった場合には一般的な最近の融資と比べるとかなり高い水準となっていますが、これは資本性劣後ローンの特徴的な利率の設定になっています。しかし、これでも抑えられた利率になっており、既存の資本性劣後ローンを見てみると5%程度の利率も珍しくありません。新型コロナウイルス対策ということで利用者に配慮した利率設定となっています。

また、このように利率が高いということで早く返済してしまいたいと考える会社も多いなかで、これまでの通常の資本性劣後ローンでは原則繰り上げ返済が出来ませんでしたが、新型コロナ対策資本性劣後ローンは、5年を超えれば期限前弁済が可能ですので、使いやすくなったという印象があります
この貸付利率については通常の融資と違っていて、分かりにくいのですが、資本性劣後ローンは利益の出ていない会社からは利息を取らずに利益が出ている会社から利息を多めに取るという仕組みで、資本性という名前の通り、出資の配当に近いイメージとなっています

その他留意事項

その他の留意事項としては以下の3点になります。
・無担保、無保証である
・法的倒産手続の開始決定が裁判所からなされた場合にはすべての債務に劣後する
・金融機関は資産査定上、自己資本とみなすことができる

資本性劣後ローンに向いてる会社は?

一般的な融資と異なり、馴染みのない設計なのでとっつきにくい面もありますが、メリットが多い制度になりますので、うまく活用することで会社の資金繰りを助けてくれます。

スタートアップ企業

特にスタートアップの会社は黒字化するまでに時間がかかりますが、黒字化するまでの期間を低金利かつ借入期間中は返済無しで100%その資金を運用できるので、スタートアップ企業にとっては非常にメリットのある融資制度です。

事業再生フェーズの会社

事業再生フェーズの会社にとっても、事業再生していく中で経営改善計画を作成し、その経営改善計画を実行することになっても実行した効果が出てくるまでに時間がかかるということを考慮すると黒字化できていない期間は低金利となり、借入期間中は返済無しで100%その資金を運用できるので大きなメリットになります。

財務改善に取り組める会社

スタートアップ・事業再生の2つの局面に非常に適合した制度であると言えますが、どんな会社でも使える制度ではありません。仮に融資を受けられても、経営管理ができていない会社は返済期日に一括返済ができないということにもなりかねませんので、しっかりと財務改善、資金繰り管理に取り組める会社が使うべき制度であるといえます。

債務超過の会社

コロナ以前は順調に黒字推移してきた会社がコロナの影響を受けて赤字転落してしまって、債務超過になった場合にも有効です。資本性劣後ローンは自己資本と見なされますので、債務超過状態の会社が活用することで純資産を増やして債務超過を回避出来るからです。

また、ここ数年は黒字で推移しているものの債務超過状態の会社が資本性劣後ローンを利用することで純資産を増やして債務超過を解消したり、表面的には資産超過ですが、実態ベースでは債務超過の会社が資本性劣後ローンを利用して純資産を増やして実質債務超過を解消する際にも有効です。

つまり、資本性劣後ローンを活用することで債務超過を解消でき、銀行からの評価が上がることで今後の金融支援が受けやすくなり、結果的に経営改善が加速するというメリットが享受できます

資本性劣後ローンの返済期間は5年1ヶ月、10年、20年の3つから選択でき、長い期間元金の返済がないという点にメリットを感じる会社が多いのですが、実は資本性劣後ローンのメリットは債務超過の解消につながるという「資本性」という点にあります逆に資本性という意味においてメリットがないのであれば、新型コロナウイルス感染症特別貸付を利用することを検討しましょう。こちらの制度は日本政策金融公庫の国民生活事業で最大8,000万円の融資を受けることができます。期間は設備資金であれば最長20年、運転資金であれば最長15年の長期で借入ができます。さらに据置期間が最長で5年間とることができ、最大で5年間は元金の返済をする必要がないので、こちらの制度の検討をしてみてはいかがでしょうか。

借入後も丁寧に対応できる会社

新型コロナ対策資本性劣後ローンを活用するに当たっては「事業計画書」が必要となりますので、長期の経営計画を作成することが必要です。さらに融資を受けた後は毎期ごとに経営状況の報告が必要になりますので、借りた後も大変になります。借りる前はしっかり管理して融資を受けるといい加減になる会社もありますが、そのような会社には不向きな制度といえるでしょう。

まとめ

新型コロナ対策資本性劣後ローンを活用するうえで重要なポイントは、しっかり資金繰り管理をして、返済期日に一括弁済できる状況をつくることです。新型コロナ対策資本性劣後ローンは長期融資のように毎月の分割弁済ではなく、期日一括弁済ですので、資金繰り管理ができていないと返済期日に大変な苦労をすることになります。金融機関もそういった点を懸念しているので、資金繰り管理ができているかどうかを判断して融資審査をしています。
例えば、10年の返済期間で融資を受けるなら10年分の予測資金繰り表を提出するよう要請される可能性もあります。したがって、資金繰り管理の体制の構築は「資本性劣後ローン」を活用するにあたって必須であると考えたほうがいいでしょう。
このように利用のハードルは通常の融資に比べて高めですが、うまく活用することでメリットが大きいので、活用できる会社はぜひ活用を検討してみて下さい。

 

今回はここまで。
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