銀行員が教える絶対にしてはいけない粉飾決算
粉飾決算とは
粉飾決算とは、会社が融資を受けやすくするために実際の売上よりも多めに決算書に記載したり、赤字を黒字にするなどして、財務内容が良く見えるように操作することです。
実際のところ、故意であってもなくても粉飾決算をしている会社は一定数存在します。大胆なケースだと年商5千万円の会社が粉飾決算をして売上を実際よりも多く見せて年商5億円にして、粉飾した決算書をもとに1億円の融資を受けた事例があります。
また、取引銀行ごとに違う決算書を作成して、提出先の銀行から借りている金額は正しく記載し、それ以外の金融機関からの借入金額を実際よりも少なくごまかして負債総額を実際よりも少なく見せて、融資を受けやすくするケースもあります。
よくある粉飾決算と見抜き方
粉飾決算の具体的な手法は様々です。ここからは、実際にあった粉飾決算の中から、よくある粉飾決算の事例と銀行がどのように粉飾決算の手口を見抜いているのかについてご紹介します。また、それぞれの粉飾決算について、銀行から融資を受ける際に、完全にアウトの粉飾決算なのか、ギリギリセーフの粉飾決算なのかについても解説しています。
1.減価償却費の未計上
減価償却費とは、機械装置、建物、自動車、設備備品など長期間事業で使用するものを税法で定められた耐用年数に応じて、少しずつ経費に落としていくという税務・会計上の独自ルールです。
例えば、自動車であれば6年、木造の家屋であれば22年など毎年少しずつ経費化してかなければなりません。この減価償却費の未計上、つまり減価償却費を計上しないという粉飾決算手法は、よくある粉飾の手口として知られています。ちなみに法人税法上、会社にとっては実は減価償却費は任意計上という税法上の立場をとっており、税務上は計上してもしなくてもいいということになっています。しかし、税務と会計ではとっている立場が異なります。会計は会社法、つまり商法がベースになっており、金融機関から融資を受ける際には減価償却費をしっかり計上しているかどうかを確認されることになります。
銀行側の視点
それでは、減価償却費の未計上を銀行側はどのように見抜いているのでしょうか?
答えは固定資産台帳にあります。法人税の申告をする際には固定資産台帳を作成し、添付しなければなりません。固定資産台帳には具体的な備品の名称、取得年月日、償却方法、耐用年数、取得価額などが記載されています。例えば、実際にあった例として事務デスク555,397円を定率法で償却した場合には一期で償却できる額は24,622円となります。この24,622円という数字は固定資産台帳の「当期償却額」に記載されます。ここで計算された資産と減価償却費の合計が会社の決算書の損益計算書に記載されることになります。
このように会社は所有している設備の一覧を固定資産台帳で備え付けなければならないので、固定資産台帳を見れば適正な手続に基づいて減価償却費が計算されて減価償却費が適正に計上されているか、すぐに分かります。仮に減価償却費を計上していないとするならば、「当期償却額」の欄が0になりますので、銀行等の金融機関は融資審査の際にすぐに粉飾決算を見抜くことができます。
銀行側の評価
銀行融資の際は、セーフと判断されやすい粉飾決算です。税務上、任意償却と定められていることもあり、また非資金損益項目でもあるため、減価償却費がしっかり計上されていないということに対し、融資審査において大きなマイナスになることは比較的少ないのではないかと思われます。ただし、減価償却をゼロにして黒字化しているケースも散見されますが、銀行融資に関しては全く無意味ですので、やめておきましょう。
2.接待交際費等の経費の未計上
こちらは接待交際費や会議費など、実際に支払っている経費をなかったことにするという手法です。経費の未計上を会計上の仕訳で表すと以下のようになります。
接待交際費 10,000円/現金 10,000円
実際に会社のキャッシュは出ていっているわけですから、経費がなかったことにしようとしても現金が外部に流出している事実に変わりはありません。それでは、どのようにして経費がなかったことにするのでしょうか?
具体的には、次の2つの手法が多い傾向にあります。
まず1つ目はそもそも仕訳をしないという方法です。この手法を使うと実際の現金残高より手元の帳簿上の現金残高が膨れ上がるので、金額が大きいとそれが目立ってしまい露呈してしまいます。
2つ目は役員貸付金という形で仕訳をします。仕訳で表すと以下のようになります。
役員貸付金 10,000円/現金 10,000円
現金が流出している事実に変わりはありませんが、「接待交際費については会社の経費とは関係ないところで個人的な支出として一時的に貸していますよ」という形を取ります。
銀行側の視点
結局のところ、現金や役員貸付金などの雑勘定については、銀行側は信用しない(=ないものとして考える)傾向にあります。前期の決算と比較し、これらの勘定が増加している場合は、経費支出があったものと仮定して再計算する場合もあります。統計データや業界平均と比べて異常に増加している場合は、コンピューターがアテンション(注意)を出すので、一目で分かります。
銀行側の評価
実際に支払っている経費を未計上している場合、銀行融資に関しては完全にアウトと判断されます。企業側としては、経費の未計上はないと主張するしかありませんが、現金の減少や貸付金の増加について詳細な説明を求められるうえ、銀行側の心証は悪化することになると思われます。
3.在庫の調整
こちらの手法も、粉飾決算の際の定番中の定番です。在庫は決算書の貸借対照表では棚卸資産と記載されています。そして、損益計算書で売上原価として経費に落とせる在庫分は「売れた分」だけとなります。これは単純な話で、決算期の直前でたくさん在庫を仕入れても、売れてなければ売上原価を減少させることは出来ません。これは法人税や所得税の考え方の基本ですが、売上とそれに対応する原価は紐付いています。売上原価として経費に落とせるのはあくまでも売れた分だけになります。
したがって、多くの商品を仕入れても売れていなければ経費に落とすことは出来ません。その商品は損益計算書ではなく、貸借対照表の棚卸資産として計上され、来期以降に繰越されることになります。多くの小売店やコンビニ、飲食店では決算の際に棚卸を実施しますが、在庫管理が出来ている会社であれば毎月月末に在庫のカウントをして、仕入にカウントする分の取り消しをしています。
さらに、赤字の会社と黒字の会社では、在庫の調整に関して考えていることが若干違います。赤字の会社であれば少しでも在庫を膨らませて、売上原価を減少させ、利益を多く見せたいと考えます。一方で、黒字の会社は利益を圧縮して、納める税金を少なくしたいので、在庫を圧縮し、売上原価を増加させて利益を少なく見せたいと考えます。このように赤字の会社であっても黒字の会社でもどちらでも使える粉飾手法ということになります。
銀行側の視点
銀行はどのように在庫の調整による粉飾を見抜いているのでしょうか?
例えば、売上が500百万円、売上原価が350百万円の会社があるとします。この際に原価率が重要になります。原価率とは売上原価が売上高に対して何%かを表したものです。今回は350百万円÷500百万円×100=70%となります。しかし、赤字の会社が在庫を膨らませて売上原価が200百万円になったとします。この場合は200百万円÷500百万円×100=40%となります。原価率というのは特別なことが無い限りは毎年一定の範囲内に収束しますが、在庫の調整をすると原価率が極端に変化します。
また、在庫の回転期間を計算することによっても判明します。在庫の回転期間とは決算時点の在庫を平均の月商で割ることによって求められますが、こちらも特別なことが無い限り、在庫回転期間は毎年一定の範囲内で収束します。在庫の回転期間を計算しても在庫のかさ増しをすると、極端な変化が生じますので、すぐに判明します。
銀行側の評価
在庫調整していることが判明した場合、銀行融資に関しては完全にアウトと判断されます。企業側としては、在庫の調整はないと主張するしかありませんが、原価率や在庫回転期間の変動について詳細な説明を求められるうえ、銀行側の心証は悪化することになると思われます。
4.売上の前倒し計上
来期に予定されている売上を前倒しして、今期の売上に計上する手法です。
銀行側の視点
この手法は、粗利率や契約書などの原始資料の確認によって容易に判明します。例えば、本来の売上高が500百万円、売上総利益が150百万円だとします。ここで、来期の売上200百万円を今期に計上して売上を700百万円、売上総利益を350百万円とすると、本来の粗利率が30%(150百万円÷500百万円×100)ですが、決算書上の粗利率は50%(350百万円÷500百万円×100)となります。粗利率は特別な出来事が無い限り毎年一定の範囲内で収束するものですので、銀行側は粉飾された数字ではないかと疑います。
銀行側の評価
売上の前倒し計上が判明した場合、銀行融資に関しては完全にアウトと判断されます。企業側としては、売上の前倒し計上はしていないと主張するしかありませんが、粗利率の変動について詳細な説明を求められます。契約書などの原始資料を求められると、言い訳はできないかもしれません。
5.架空売上・架空取引
架空売上とは、その名のとおり、架空の売上を計上する手法です。
架空取引とは、取引が発生していないにもかかわらず、2社間で取引が発生しているように見せかける手法です。架空取引は、関係の深い2社がタッグを組んで、利益をかさ増しする際に行われます。例えば、A社の決算期の直前に、B社に対して商品を架空販売します。A社は実際には商品の提供を行っていませんが、B社から1,000万円の売上を受け取ります。そして、決算期が到来し、決算書を作成したら、逆にB社から1,000万円の商品を購入し、B社から受け取った架空の売上1,000万円を返還します。
このようにA社が付き合いの長い取引先B社に頼み込んで、架空取引をする場合やA社とB社それぞれの決算期直前に互いに架空取引をして、決算月だけ売上を大きく見せることが実際に行われています。
銀行側の視点
架空売上の計上は、決算書上は売上の前倒し計上と似たような形になります。先ほどと同様に粗利率の変動によって粉飾決算を疑われてしまいます。また、売上が計上されると、通常は貸借対照表の売掛金の項目が増えますが、その売掛金は回収されることがないので、永久に残ります。客観的に見れば出どころの分からない売掛金が計上・滞留するため、すぐに判明します。
一方、架空取引は、A社とB社が関連企業でなければ、見破ることが困難です。銀行が定期的に試算表を受け入れしている場合は別として決算書を一年に一度だけ受け入れしている場合は判明しづらい手法と言えるでしょう。
銀行側の評価
架空売上・架空取引が判明した場合、銀行融資に関しては完全にアウトと判断されます。架空売上・架空取引によって改善された決算書を銀行に提出して融資を引き出すのは悪質な粉飾決算の手法です。絶対に行わないようにしましょう。
6.循環取引
循環取引とは、グループ会社が子会社を活用したり、取引先とタッグを組んで行う売上水増しの粉飾手口です。例えば、子会社もしくは取引先を含むA、B、C、D、E、F社があるとします。
まずA社がE社からE社の商品を1,000万円で購入します。A社はE社の商品をB社に1,200万円で転売します。さらにB社はC社にE社の商品を1,400万円で転売します。そして、さらにC社はE社の商品をA社に1,600万円で転売します。最後にA社はE社の商品をF社に2,000万円で転売します。
一見すると正常な取引が行われているようですが、実際にはA社がE社から購入した商品は動かずにA社に滞留しています。伝票だけがA社→B社→C社→A社と循環するのです。A社はE社の商品を最終的にF社に販売しますが、本来であれば、E社から1,000万円で仕入れた商品をF社に2,000万円で販売することで1,000万円の利益を獲得できますが、C社からE社の商品を1,600万円で買い戻す工程が生じることで△400万円の利益を失います。
これに対してB社は1,400万円ー1,200万円=200万円、C社は1,600万円ー1,400万円=200万円の利益を商品を一度も手元に置くこともせずに水増しすることが出来ます。
銀行側の視点
このような循環取引は親会社がの利益の圧縮によって脱税したい場合、親会社から子会社へ利益を還流する目的や取引先に頼み込んで、利益のかさ増しをする場合に行われる手法です。脱税が係る場合は税務上はアウトですが、銀行融資の場合には商品が動いていないことを証明することが難しいことやそれぞれの合意がある場合は粉飾かどうかの判断が難しくなります。
銀行側の評価
銀行側としては、正常な取引か粉飾かどうかの判断が難しいため、実質的にはセーフと判断することが多いと思われます。一つの取引企業に多くの時間を掛けられませんし、税務署や特捜部のように強い権力に基づいて調べないと分からないと思われます。
粉飾決算が発覚するとどうなる?
粉飾決算が発覚すると当然ですが、金融機関の信用を失い、資金繰りに窮することがあります。発覚後に金融機関から信頼を回復することは非常に大変なことです。
実際、粉飾決算をするのは結構簡単なことです、会計知識のある方であれば、どこをいじれば利益が増えるかが分かっているので、少しデータに着色すれば粉飾できてしまいます。
しかし、一度粉飾決算に手を染めると元に戻すことが難しくなります。なぜなら、数字をいじるといろいろなところにしわが寄りますので、不自然な数字が出来てしまいます。その不自然さには当然金融機関が気が付きますので、数字について経営者に様々な質問を投げかけてきます。
そのような質問にうんざりして数字をもとに戻したいという経営者の方もいらっしゃいますが、実際に数字を元に戻すのは大変なことです。元に戻すどころか、実際は一度粉飾に手を染めてしまうと、その後に粉飾の度合いがさらに大きくなり、収拾がつかなくなることがほとんどです。
粉飾を繰り返すうちに、他の数字へのシワ寄せが大きくなり、矛盾点が数多く生じるので、金融機関への説明が非常に難しくなります。粉飾決算に関する矛盾点を銀行から突っ込まれないよう説明内容を事前に入念にチェックしたり、昨年の説明と今年の説明が矛盾しないように注意深く対応しないといけないなど、無駄な作業が発生します。
まとめ
粉飾決算は経営者自身が会社の本当の姿がわからなくなり、経営改善のために具体的にどこを改善すればよいかもわからなくなります。それによって経営を改善する対策が取れなくなることも考えられます。粉飾決算は粉飾するハードルは低いのですが、中小企業の規模ならば、ほぼ100%見抜かれます。粉飾決算が発覚すると銀行からの信用を失うなど、デメリットばかり起こるので、絶対にしないようにしましょう。
今回はここまで。
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