企業の節税対策|即時償却・税額控除・特別償却の比較
企業経営者のみなさんは、利益が出ると節税対策を検討されることが多いかと思います。代表的は節税方法の一つとして、設備投資をして減価償却費を計上するというものがあります。
現在、税制優遇措置として「中小企業経営強化税制」や「中小企業投資促進税制」などがあり、これらの制度を活用した節税方法には、即時償却・税額控除・特別償却の3種類があります。今回は、これら3つの方法について解説します。
減価償却とは
まず減価償却とは、購入した10万円以上の資産を法定の耐用年数に応じて何年かに分けて費用計上していく仕組みのことです。複数年にわたって使用する設備や車などは、徐々に価値が減っていくという考えが根幹にあります。
したがって、価値の減少分をその資産の使用期間に費用として配分する必要があります。この手続きが減価償却であり、このとき計上される費用を減価償却費といいます。減価償却した分は経費として損金算入できるので、節税効果があります。
例えば、6年間使う予定の営業車を300万円で購入した場合、1年目に50万円、2年目に50万円、3年目に50万円、4年目に50万円、5年目に50万円、6年目に50万円を減価償却費として計上します。
減価償却という考え方の目的は、経年劣化にともない資産価値を減らすという目的以外に、費用と収益の凸凹をならすという意味もあります。例えば、6年間使う予定の営業車を300万円で購入した場合に300万円は購入した初年度に支出しますが、営業車は6年間収益の獲得に貢献するという考え方ができます。初年度に300万円を支出しているにもかかわらず、6年間収益に貢献するにも関わらず、初年度に300万円全額を経費で計上するとなるとバランスが悪くなります。したがって、営業車が6年間収益の獲得に貢献するならば、費用もそれに合わせて6年間に支出したことにするという考え方を基本とするのです。
即時償却・税額控除・特別償却
設備投資の促進に役に立っている税制優遇措置として中小企業経営強化税制による「即時償却」または「税額控除」の選択適用が挙げられます。さらに、中小企業投資促進税制という制度として「特別償却」という方法が認められています。
即時償却とは
減価償却というのは通常、法律でこれだけの金額をこれだけの期間(耐用年数)で償却するというルールが決まっています。この通常決められたルールを適用せず、設備取得の初年度に一括で減価償却費として経費計上するのが即時償却です。
例えば、耐用年数5年の500万円の機械装置を購入し即時償却する場合、減価償却費は1年目に500万円、2~5年目の減価償却費は0円となりますので、1年目に法人税の負担が軽減され、早期にキャッシュを回収できます。回収した資金を再投資に回したり、借入金の返済をすることが可能となります。
メリット
即時償却は1年目に全額経費計上しますが、減価償却費の合計額は通常の減価償却と同じですので、長期的に見れば納税に与えるインパクトは変わりません。
しかし、その事業年度に大きな利益が出た場合に、節税効果を最大限高めることが出来ます。単純に利益を圧縮して、支払う税金を少なくすることが出来ますのでキャッシュフローの安定化が見込めます。したがって、利益が多い年に設備投資をして税金を抑え、回収したキャッシュを用いて別の設備投資を行うことが可能で、タックスプランニングの一環として、納税額の平準化を図ることができます。
また、税額控除と比較して、税金の回収スピードは明らかに有利となりますので、節税効果を早い段階で実感することができ、財務戦略を立てやすくなります。
デメリット
トータルで見た場合の納税額は変わりありません。また、来年度以降は経費計上が出来ないので、初年度にしか節税効果を得られません。したがって、即時償却を活用すべき企業は「今年度にスポットで利益が出るため、単発で節税をしたい」という場合に限定されます。
中小企業経営強化税制の即時償却
中小企業経営強化税制は全額即時償却できる優遇税制ですので節税効果がとても大きいです。中小企業だけが優遇されている即時償却制度を使い、効果的に節税して多くのキャッシュを残すことが出来ます。中小企業等経営強化法の認定を受けた「経営力向上計画」に基づき、一定の設備を取得した場合に即時償却又は取得価額の10%が税額控除できる制度となります。ただし、資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%となります。
対象となる企業
主に中小企業が対象となり、青色申告を出している資本金1億円以下の法人または常時使用する従業員が1,000人以下の中小企業等で中小企業等経営強化法の認定を受けた方が対象となります。認定率はほぼ100%なので申請すれば認定を受けられる制度といえます。
対象となる設備
対象の設備は2種類あります。それぞれ生産性向上設備(A類型)と収益力強化設備(B類型)というもので、生産性向上設備(A類型)は機械設備(160万円以上/10年以内)、測定工具及び検査工具(30万円以上/5年以内)、器具備品(30万円以上/6年以内)、建物附属設備(60万円以上/14年以内)、ソフトウエア(70万円以上/5年以内)です。
一方で、収益力強化設備(B類型)は機械設備(160万円以上)、工具(30万円以上)、器具備品(30万円以上)、建物附属設備(60万円以上)、ソフトウエア(70万円以上)です。なお設備は国内への設備投資で事業に利用する必要があります。また、中古資産や貸付資産は適用対象外となります。
手続き
適用を受けるためには、確定申告書に「明細書」「経営力向上計画書の写し」「経営力向上計画に係る認定書の写し」を添付して申告します。
注意点
中小企業経営強化税制は国の制度であり、国の制度は毎年変わるので、いつまで使える制度なのかをこまめに確認しておきましょう。
税額控除とは
税額控除とは、税額を計算する際に税金から一定割合を直接控除できる仕組みのことです。減価償却は通常通り行われます。例えば、耐用年数5年の500万円の機械装置を購入した場合、10%の税額控除を適用できますので、減価償却費は通常と同じく1年目に100万円、2年目に100万円、3年目に100万円、4年目に100万円、5年目に100万円計上となりますが、1年目はプラスで500万円×10%=50万円の税額控除が可能となります。即時償却が長期的に納税額が変わらない一方で税額控除は初年度に税金が直接控除できるので、納税額の合計が少なくなります。
しかし、税額控除は税金から直接控除することになりますので、設備取得の事業年度に利益が発生していない場合は控除する税額がないため節税効果はなくなります。
メリット
通常の減価償却費とは別に法人税額全体を抑えられます。支払う税金が確実に少なくなるので、導入した年の利益に余裕がある場合は長期的に税金を軽減できることを検討する方が得策かもしれません。
デメリット
法人税の20%が上限ですので、抑えられる税金に限りがあります。税額控除は税金から直接控除することになりますので、設備取得の事業年度に利益が発生していない場合は控除する税額がないため節税効果はなくなります。
特別償却とは
減価償却というのは、通常、法律でこれだけの金額をこれだけの期間で償却するというルールが決まっています。この、通常決められたルールを超えて償却できるのが特別償却です。例えば、中小企業投資促進税制という制度では、初年度に30%多く償却することが出来ます。この「30%」というのは追加で償却できるという意味ですので、例えば、初年度に20%償却できる資産だとしたら、追加で上乗せして30%償却して、合計で50%償却できることになります。
通常の減価償却では耐用年数5年の500万円の機械装置を購入した場合の減価償却費は1年目に500万円に20%をかけた100万円までしか損金算入出来ませんが、特別償却を使うと500万円に50%(20%+30%)をかけて250万円が損金算入出来ます。特別償却を実施すると、通常の減価償却を行うよりも150万円も初年度に多く費用として計上できるということです。お金を支出して、それに見合った分が経費として損金算入できるのが特別償却の魅力です。しかし、特別償却は減価償却費の合計額は通常の減価償却と同じですので、長期的には納税額は変わりません。
中小企業に特別償却を利用してもらい、より早く減価償却をしてもらうことで経費を落とし、資金を回収して新たな設備投資を促すことが制度の意図です。
メリット
即時償却のように初年度に大きな費用を計上できるほか、設備投資を実施した翌年以降も費用計上によって税金を抑えることが出来ます。また、特別償却は「1年間の繰越」が可能であり、設備投資を行った事業年度に特別償却を行うと赤字が出てしまう場合に、特別償却を翌年に持ち越しすることも出来ます。
デメリット
特別償却は減価償却費の合計額は通常の減価償却と同じですので、長期的には納税額は変わりません。また、「1年間の繰越」を実施する場合には申告手続きが複雑となり、税理士への個別相談が必要とります。
対象となる企業
特別償却が利用できるのは主に中小企業に限定されています。主に中小企業が対象となり、青色申告を出している資本金1億円以下の法人または常時使用する従業員が1,000人以下の個人事業主が対象となります。
対象となる業種
対象となる業種は幅広くあります。製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶賃渡業、旅行業、こん包業、郵便業、通信業、損害保険代理店業及びサービス業など、多くの業種で対象となります。
対象となる設備
対象の設備は械設備(1台160万円以上)、測定工具及び検査工具(1台120万円以上/1台30万円以上かつ複数合計120万円以上)、ソフトウエア(1台70万円以上/複数合計70万円以上)、貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)、内航船舶(取得価格の75%が対象)です。
特別償却が使えるその他の制度
一般的には上記に説明した中小企業投資促進税制という制度を利用することが多いのですが、特別償却が使える制度は他にも存在します。
即時償却や税額控除と同様、中小企業経営強化税制、中小企業経営強化法に規定する認定経営革新等支援機関による指導・助言を受けた場合に受けられる商業・サービス・農林産業活性化税制、青色申告提出企業かつ防災・減災設備への投資として自家発電機や減災設備等に投資をした際に受けられる中小企業防災・減災投資促進税制などです。それぞれ適用できる事業年度や要件に制限がありますので、事前に十分な確認が必要です。
結局どれが一番いいのか?
一般的には即時償却・税額控除・特別償却のメリットや注意点について説明をすると、大抵の経営者は即時償却を選択されます。
実際の事例を紹介します。ホテル業を営んでいる企業様の事例です。2,000万円の設備を新規に導入したので、即時償却と税額控除、特別償却のうちどれを選ぶかという問題がありました。こちらの経営者は早期に損金に落とせてキャッシュを温存できるという点に魅力を感じて、即時償却を選択されました。その結果、その期の決算で法人税はほとんど支払わずに済んでキャッシュを温存できました。その矢先に新型コロナウイルスの感染拡大が進行し、売上が大幅に減少しました。しかし、即時償却を選択したことで経営が悪化してもキャッシュがあったので様々な対策をとることが出来ました。
即時償却と税額控除、特別償却のうちどれを選ぶかというのは、キャッシュの状況や利益の状況を見ながら、顧問税理士等の専門家とともに総合的に判断するのが重要です。
会社の状況に応じたベストな選択をしよう
ここまで即時償却・税額控除・特別償却について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。一般的には長期的に支払う税金が軽減されるので税額控除が有利になりますが、設備投資後のキャッシュを安定化させたい場合には即時償却を選択したほうが有利になります。
しかし、どの制度にも適用できる事業年度や対象となる業種、設備投資に制限ありますので、どれを利用すべきなのかは個々の会社の財務状況やキャッシュの状況、長期的な財務戦略によって異なります。資金繰りの状況によってそれぞれを上手く使い分けることやそれぞれを利用した場合のシミュレーションをして有利判定をしましょう。事前に顧問税理士としっかり相談して、会社にとっての最適解を見つけることが重要です。
今回はここまで。
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