起業家に伝えたい大切なこと

役員報酬の決め方

起業家バンク事務局

2021.11.22

役員報酬とは、オーナー社長や社長をサポートする取締役や執行役員などに支払われる報酬です。会社を設立する際、役員報酬を決定する必要があり、また、既存の企業であっても毎年役員報酬の金額を検討することになります。

役員報酬の金額を決める際には税金や会社の利益、従業員のモチベーションなど考慮するべき要素が多いので、慎重さが求められます。この記事では役員報酬の金額を決定するときに考慮したい要素や具体的な金額の決め方について解説しています。

役員報酬と税金のバランス

役員報酬は会社の経費として計上されます。したがって、適切に設定することで法人の節税効果を得ることができます。一方で、個人の所得税との関係性も考慮する必要があります。したがって、役員報酬を決定する際には以下のポイントを押さえて、効果的な金額を設定することが大切です。

法人税との関係

法人税との関係について考える際に決算書の損益計算書の各利益について簡単に確認しましょう。

・売上総利益(粗利):売上高ー売上原価
・営業利益:売上総利益ー販売費及び一般管理費
・経常利益:営業利益ー営業外損益
・税引前当期純利益:経常利益ー特別損益
・当期純利益:税引前当期純利益ー法人税等

法人税は、税引前当期純利益に法人税率をかけて計算されます。法人実効税率は企業の規模などによって異なりますが、仮に30%だと仮定して、税引前当期純利益が1億円だとすると以下のようになります。

法人税=1億円×30%=3,000万円

したがって、支払う税金を圧縮するためには税引前当期純利益を減らす必要があります。役員報酬は上記の表のうち販売費及び一般管理費に含まれます。役員報酬を高くすることによって、利益が圧縮されて法人税が下がります。極端な話、法人の節税に重点を置く場合は、役員報酬を税引前当期純利益と同額にして、一切利益を残さないという選択肢もあります。

例えば、粗利を6,000万円とした場合に1ヶ月の役員報酬を500万円にすれば、1年間で役員報酬の金額は6,000万円となりますので、会社に利益は残りません。この結果、法人税はゼロになります。
しかし、会社に利益が残らないということは余剰資金がないということです。企業の持続的成長には投資が必要であり、また出資してくれた株主に利益を配当として還元することも必要です。利益をできるだけ多く残すことも会社の重要なミッションといえます。

所得税との関係

法人税を可能な限り圧縮するために役員報酬を高く設定した場合はどうなるでしょうか?
役員報酬は給与所得に分類され、所得税が課税されます。所得税には累進課税制度が適用されますので、役員報酬の金額について考える場合には所得税率について考慮することが必要です。

詳細は割愛しますが、個人が受け取った所得には累進課税制度が適され、役員報酬が高くなるほど支払う所得税は高くなります。個人として節税をしたいのであれば、受け取る役員報酬の金額を最小限に抑えることになります。

結局は、利益の額と、法人税と所得税の支払いのバランスを考えて決める必要があります。

役員報酬を決定する際に参考にする金額

役員報酬をいくらに設定するかについては特に法律は存在せず、会社の裁量に委ねられています。法人で節税をするために役員報酬の金額を高くすると個人で支払う所得税が高くなり、個人で節税するために役員報酬の金額を低く設定すると法人税が高くなります。したがって、実際に役員報酬の金額を決定する時には様々な外的要素を考慮して、それらとのバランスをとることが大切です。考慮すべき要素は、主に次のとおりです。

役員報酬の平均額

実際には会社の規模に応じて役員報酬を決定するのが一般的です。国税庁が「民間給与実態調査」において中小企業の役員報酬平均額を公表しています。資本金の金額に応じた役員報酬ですので、参考になるのではないでしょうか。

資本金2000万円未満⇒役員報酬548万円
資本金2000万円以上5000万円未満⇒役員報酬796万円
資本金5000万円以上1億円未満⇒役員報酬1104万円
資本金1億円以上⇒役員報酬1385万円

資本金の金額が大きくなるほど役員報酬の金額も大きくなります。役員報酬は会社の裁量に委ねられていますが、迷ったら平均前後に設定するのもいいでしょう。

同業他社との比較

同業他社の役員報酬と比較して、規模が同じくらいの企業の役員報酬と同程度にするという方法もあります。中小企業の多くは非上場企業ですので、詳細な役員報酬の金額は不明ですが、他社と取引のある税理士やメインバンクなどに相談すれば、だいたいいくらぐらいが妥当か教えてくれるかもしれません。

同業他社と比較して極度に低い役員報酬ではモチベーションの低下につながる一方、極度に高い役員報酬は税金逃れだとみなされて税務署に損金算入を否認される可能性があります。

会社の業績との関係

役員報酬は毎年自由に決めることができます。必ずしも毎年同じ金額の役員報酬に設定する必要はありません。会社の業績との関係で、業績が好調な場合には役員報酬の金額を高くして、利益を圧縮させ、法人の節税対策をするという方法もあります。

逆に業績が悪いときには役員報酬が企業の財務状況を圧迫しないように低めに設定するのがよいでしょう。金額を決定する際には前年の業績や今後の業績の見通しを参考に慎重に決定しましょう。

従業員の給与との関係

役員報酬は、従業員の給与よりも高く設定されるのが一般的です。しかし、役員報酬と従業員の給与の水準があまりにも乖離すると従業員のモチベーションに関わります。特に業績が悪いときに高い役員報酬が維持されていると従業員の不満が出やすくなるでしょう。

役員報酬の金額を決定する時には従業員との給与格差を最小限にして、職責の重さと比例した金額にしましょう。一般的に、役員報酬と従業員の給与の格差が20倍以上になると従業員の不満が生じやすくなると言われています。

事業年度途中の役員報酬の金額の変更

事業年度途中に役員報酬の金額を変更することは容易ではありません。しかし、やむを得ない事情がある場合には増減額にかかわらず、事業年度開始から3ヶ月以内であれば役員報酬の金額を変更することができます。

また、役員報酬の金額の変更には株主総会での決議が必要であり、会社の業績が悪化したとしてもオーナーの一存で金額を変更することはできません。また、会社の業績が悪化したと認められる「業績悪化改定事由」については、法人税基本通達で定められています。

まとめ

役員報酬を決定する際にはオーナー自身が「いくら欲しいか」という観点ではなく、法人税・所得税とのバランスや従業員の給与、業界の平均水準など様々な要素を考慮しましょう。役員報酬の金額について悩んでいる場合には、税理士や取引のある金融機関などに相談しながら決めるといいでしょう。

今回はここまで。
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