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中小企業が自社株を売却するメリット&デメリット

メガバンカー takuo

2021.11.26

近年、経営者の高齢化や後継者不足によってM&Aを検討する中小企業は増えています。株式会社レコフの調査によれば、1985年時点のM&A件数は260件ですが、2019年には4,000件を超えました。

M&A実行には自社株を譲受企業に売却することになるため、自社株の売却が話題になるのはM&Aなど事業承継対策についてでした。しかし、自社株の売却は単に事業承継対策だけではなく、資金調達など様々な用途に活用できます。したがって、自社株売却によるメリットについて理解することは会社の経営を考える上では重要です。この記事では中小企業の経営者が自社株を売却する場合のメリットとデメリットについて解説します。

自社株とは

自社株とは「自社株式」の略であり、株式会社が自社で発行し、自社で保有している自社の株式を指しており、「金庫株」「社内株」とも呼ばれます。本来、株式は、会社の設立時に資金を集めるために発行し、経営者や取引先、外部の投資会社などが出資するものです。中小企業であれば、経営者や経営者一族が自社株をすべて保有しているというケースも珍しくありません。

自社株の取得はインサイダー取引や株価操縦を防止する観点から禁止されていましたが、商法が改正されたことで無制限に認められるようになりました。株式は保有割合(厳密には議決権割合)によって会社の経営への関与度が変わりますので、自社株を管理しておくことは中小企業にとって重要な経営戦略の一つとなります。会社の経営を安定させるため、また余剰資金が生まれたときの株主対策や税金対策として、外部の個人や法人が保有する自社株式を取得することもあります。

自社株を売却するメリット

会社の経営の安定化や税金対策として自社株を管理しておくことは会社の重要な経営戦略と述べましたが、それでは、自社株を売却することにはどのような意味があるのでしょうか?

一般的にはM&Aなどの事業承継対策や資金調達手段として語られることが多い自社株の売却ですが、そのほかにもメリットがあります。自社株の売却のメリットについて理解することは、自社株を活用した経営戦略を考える上で重要です。

それでは、それぞれのメリットについて確認しましょう。

資金調達手段

自社株の売却による直接的なメリットは資金調達が可能となる点です。自社株を売却すると「売却する株式数×一株当たりの価値の金額」が株式売却の対価として発生します。株式を新たに発行して出資を募る場合には発行済株式総数が変動しますので、2週間以内に異動届出書の提出が必要となります。しかし、すでに自社で保有している自社株を売却する場合は自社株の売却によって発行済株式総数は変化しませんので、届出は不要です。したがって、企業によっては、迅速かつスムーズに資金を確保することが可能になります。ちなみに実際に自社株を売却する場合には不特定多数の株主に売却するのではなく、外部の特定の第三者に売却する「第三者割当処分」という方法が主流となります。

事業承継対策

中小企業の経営者にとっては、自社株の売却=事業承継対策という認識が強いかもしれません。中小企業経営者の高齢化が進む日本では、事業承継対策の重要性が中小企業庁を中心として叫ばれてきました。事業承継対策といえば、従来は親族内での承継や従業員承継が主流でしたが、少子高齢化や都市部集中などの影響により、後継者の確保が困難になってきています。そのため、注目されているのがM&Aです。

少し前まで、M&Aといえば「ハゲタカに事業を乗っ取られる」というイメージもありましたが、1985年時点で260件であったM&Aの件数は019年には4,000件を超えるなど増加傾向にあります。後継者不足に悩む経営者にとっては「廃業する」もしくは「M&A等による事業承継」の2つしか選択肢がありません。廃業を選択すると取引先に迷惑をかけるだけではなく、雇用が失われ従業員が露頭に迷うことになりますので、選択肢が2つしかない場合は、M&Aを選択する経営者がほとんどです。

M&Aでは外部の第三者に事業を売却しますが、その際に自社株を譲渡するプロセスが必要になります。M&Aにより、第三者に自社株を売却すれば廃業を避けることができます。会社が廃業した場合は従業員は職を失いますが、M&Aによって会社が存続すれば働き続けることができます。従業員の雇用は維持され、再度契約を締結する必要がなく、従業員の負担も軽減されます。

企業再編

企業再編とは、効率的な企業運営や事業拡大などを目的として、株式会社の事業や組織を編成し直すことです。資金調達手段や事業承継対策の手段としての自社株の売却はイメージしやすいですが、企業再編を目的とした自社株売却も大きなメリットです。

通常の企業再編は、合併・分割・株式交換などの方法によって行われますが、手元の自社株がない場合には新しく株式を発行し、2週間以内に異動届出書の提出が必要となります。しかし、すでに自社株として保管している株式は企業再編を目的として代用交付が可能です。新規株式発行のための届出などの手間が省けるため、スムーズな企業再編が可能となります。

また、自社株の売却によって株主構成が変更され、会社に対する影響力が変動するため企業再編が進みやすいこともメリットとなります。M&Aを実行して、事業の一部を他社に売却するほうが手軽かつ効果的な場合もありますが、スムーズな企業再編を目的として実際に自社株を処分した事例は多く存在しています。

自社株を売却するデメリット

自社株の売却には大きなメリットがある一方、自社株の売却には考慮すべき点やデメリットも存在します。これらのデメリットを理解しないで、安易に売却の準備を進めるべきではありません。自社株の売却を検討している経営者の方はこれから解説するデメリットとも向き合った上で慎重に検討しましょう。

株価の下落

中小企業の場合は当てはまらないケースが多いですが、自社株の売却によって株価が下落し、自己資本が目減りする可能性があります。自社株を売却することによって株式市場に流通する自社株の数が増えることになります。

株式市場は市場と同様に需要と供給の関係で成り立っているため、供給が増えればそれだけ株価の価値は下落します。さらに自社株の売却によって1株あたりの純利益が下がり、PERが上昇します。

PERとは「Price Earnings Ratio」と呼ばれる指標であり、株価÷1株当たりの純利益で計算されます。PERは株価の割安度を判断する指標であり、数値が低いほど株式は割安と判断され、投資家から注目を集めます。

新たに株式を発行した上で、自社株を売却すると発行済み株式数が増えるため、1株当たりの純利益が下がります。これによってPERの分母が減少し、結果としてPERの値は上昇します。PERの上昇によって投資家から忌避され、株式の価値が下落します。

株価が下落することですでに株式を保有している株主や投資家からの批判が予想されるほか、財務が悪化し、銀行融資を受けることが難しくなるなど経営にも悪影響がでます。そのため、自社株を新たに発行する方法を採用する場合は発行する株数について慎重な検討が必要になります。

売却益に対する課税

自社株を売却した対価として受け取った譲渡益には、所得税などの税金が課せられます。このときの税率は自社株を売却した相手によって異なります。自社株を会社の外部の個人や法人に売却する場合には譲渡益は譲渡所得として扱われます。譲渡所得は分離課税方式によって計算されており、約20%が課税されます。

一方、社内で売却する場合には配当所得に該当します。配当所得の場合は総合課税方式が採用されており、税率は累進課税、つなり譲渡益が大きいほど税率が大きくなります。つまり、売却益に対する税率を抑えるという意味では、社外に自社株を売却するほうが負担を抑えられます。

株式の分散

自社株を売却した場合、株式の分散リスクが生じます。株式には議決権があり、議決権比率によって株主には権利が付与されます。1/2超の議決権の保有によって取締役の選任及び解任、役員報酬の決定、配当の決定などの普通決議の可決が可能となり、2/3以上の議決権を保有することで重要事項の可決が可能にあります。具体的には定款の変更、合併の承認、会社の解散などです。

逆に、1/3超の議決権割合によってこれらの重要事項に対して拒否権を発動することができるため、1/3を超える株式が外部に分散することは避けたいところです。自社株が分散する場合は、不特定多数の人に株式が流れつき、重要事項の決議がとどこおったり、会社と関わりのない第三者が株式を買い集めて、経営が不安定になる可能性もあります。実際に中国や韓国などの新興国の企業が1/3を超える株式を買い集めて経営権を奪ってしまう事例が中小企業でも発生しています

まとめ

自社株の売却によるメリットやデメリットについて解説しました。自社株の売却は企業価値が大きく変わる可能性のある経営上の重大な決断です。自社株売却によるメリット及びデメリットをよく理解した上で売却の可否について判断しましょう。

 

今回はここまで。
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この記事を書いた人

メガバンカー takuo

某メガバンクに勤務していたバンカー。窓口業務・融資・資産承継・事業承継など、あらゆる仕事でハイレベルな実績を残す。起業家や経営者の成功を願い、現役のときには話せなかった独自のノウハウを紹介する。

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