起業家に伝えたい大切なこと

有価証券担保と不動産担保はどちらが有利か

起業家バンク事務局

2021.11.29

銀行融資の際の担保

企業が銀行に融資の申請をする場合、担保を要求されないことが多いのですが、設備資金などの長期で高額の融資の場合には、担保を差し入れることを求められるのが一般的です。担保の有無は銀行との関係性、企業の業績、成長性にもよりますが、銀行としては、企業の返済能力がなくなった場合に担保を実行して換金することができるので、融資を実行しやすくなります。

銀行融資に関して言えば、信用保証協会の保証が前提となる信用保証協会保証付融資と信用保証協会の保証がつかないプロパー融資がありますが、それぞれ信用保証協会もしくは銀行に対し担保を差し入れることを要求されることがあります。

有価証券担保とは

銀行融資の担保の最も代表的なものは不動産担保ですが、不動産以外に担保の用に供されるものに有価証券があります。有価証券担保は有価証券を担保にすることを意味します。

有価証券とは国債、公債、社債、上場企業の株式、投資信託、手形、小切手、新株予約権など商取引から発生する財産権を指します。なかでも国債や上場企業の株式は有価証券担保の代表格であり、よく利用されています。これらは譲渡担保や質権の方法で担保設定され、第三者への対抗要件を備えるために有価証券の引き渡しをして、銀行が占有することが一般的です。

有価証券担保は不動産担保と異なり、第三者への対抗要件に登記を必要としないため、気軽に利用できる点が魅力的ですが、有価証券の種類によって担保としての評価が異なる点に注意が必要です。

詳しくは後述しますが、国債は政府が発行している債券ですので、他の有価証券と比較して信用力や流動性が高く、有価証券担保として銀行から好まれます。そのため、社債や上場企業の株式、手形と比較しても担保としての評価が高く、評価額も高くなる傾向にあります。

また、株式のなかでも、市場で取引が可能であり、日常的に売買ができる上場企業の株式のほうが流動性が高く、未上場企業の株式よりも担保としての価値は高くなる傾向にあります。そのため同じ有価証券であっても何を担保の用に供するかによって受けられる融資の金額や審査の通りやすさに格差が生じます。

有価証券担保のメリット

有価証券を担保の用に供することのメリットは、主に次の3点となります、

1点目は、低金利で高額な融資を受けられることです。もちろん、担保の用に供する有価証券の種類によりますが、国債や上場企業の株式の場合、発行体の信用、流動性ともに問題ありませんので、不動産担保と同様に企業の返済能力を補完する能力を十分に持ちます。したがって、銀行としても多少金利を下げてでも融資ができる環境となります。

2点目は、国債や上場企業の株式など信用力のある有価証券であれば、審査に通過する確度が高まることです。通常、有価証券担保の場合は有価証券の価値を算定するために時間を要しますが、国債や上場企業の株式であれば、公開情報が十分にあるので、審査のハードルが下がります。一方で、手形や小切手の場合は案件ごとに異なるので、審査のハードルは高くなります。

3点目は、有価証券を担保の用に供しても株式優待や配当金は受け取ることができます。担保はあくまでも返済能力がなくなったときに実行されるものであり、対象となる有価証券の所有権が移転するのは実行の時点ですから、担保の用に供しても所有者としての権利を行使できます。したがって、株主優待や配当金など有価証券を保有している利益を享受できます。株式によっては利息以上の配当金を受け取ることができるため、その場合は実質金利ゼロで融資を受けることも可能です

有価証券担保のデメリット

使い方によっては実質金利ゼロで融資を受けることのできる有価証券担保ですが、デメリットがないわけではありません。有価証券担保のデメリットも3点あります。

1点目は、有価証券、特に上場企業の株式等は株価が常に変動していますので、株価の下落によって担保割れの危険性があります。極端な話、担保の用に供した株式の発行体の会社が倒産した場合には株式の価値は実質ゼロになります。最近では2010年の日本航空のように東証一部に上場している大企業でも株式価値が0になるケースは珍しくありません。大企業であっても倒産する時代に株式を担保に融資を受けることはある意味でハイリスクとなります。

企業が倒産して株式の価値がゼロになった場合、銀行から金利や期間を調整することを要請されることがあります。実際にはこのようなケースを避けるため、銀行では有価証券の価値を調査・審査していますが、将来的な株価は誰にも分かりません。このように有価証券を担保に用に供することはリスクとなりえるので、常に頭に入れておくのと同時に借入期間をできるだけ短縮することを考慮しておきましょう。借入期間が長期化するほど担保割れのリスクが高まることに留意しておきましょう。

2点目は、有価証券は種類にもよりますが、売却価格と同等の評価はされません。一般的には売却価格の50~60%程度までしか融資を受けられません。したがって、有価証券を担保の用に供する際には出来るだけ信用力があり、流動性の高い有価証券を選定しましょう。

3点目は、どの銀行でも有価証券を担保として受け入れてくれるわけではないことです。銀行であれば、大抵の場合は有価証券担保を想定はしていますが、不動産担保に比べて、価値が安定しないため、銀行としては出来るだけ不動産を担保として供してほしいと考えています。したがって、有価証券を担保の用に供して、融資を有利な条件で受けたいと考えていても、銀行から断られる可能性があることも想定しておきましょう。

有価証券担保と不動産担保はどちらが有利か?

それでは、物的担保として最も代表的な不動産担保と有価証券担保ではどちらが有利なのでしょうか?

その点を解説する前に、両者の担保評価の手法を理解しておきましょう。銀行では担保の用に供されたものについては担保としての価値がどの程度あるのかを評価しています。銀行が担保価値が高いと判断したものを差し入れていれば、より大きな金額の融資を受けることができます。それでは、不動産や有価証券について銀行は担保価値をどう評価するのでしょうか。

不動産担保の担保評価

銀行によって、不動産担保の担保評価の手法は異なりますが、不動産が物的担保として差し入れられた場合は、銀行で独自に構築された担保評価システムや銀行に所属する不動産鑑定士が担保価値を評価するのが一般的です。

不動産は時価以外にも相続税算定の際に基準となる相続税路線価、国土交通省が発表している公示価格、都道府県が公表している基準値標準価格などがあります。これらの価格をもとに1平方メートルあたりの価格を算定し、価格に土地の面積を掛けて、実勢価格を算定しています。なかでも相続税路線価は担保評価の基準となる実勢価格の80%程度となっていますので、国税庁のHPで調べた路線価に80%で割り戻すとだいたいの実勢価格を算出できます。

このようにして算定された土地の実勢価格に「掛け目」を掛けて担保価値を計算します。掛け目は銀行によって異なりますが、70%程度であることが多いようです。この掛け目の存在によって不動産は実勢価格よりも低い価格で担保評価されることになります。これは、担保を実行したときに、必ずしも実勢価格で売れるとはかぎらないため、銀行は掛け目を掛けて評価を低くしたものを担保価値とするのです。

有価証券担保の担保評価

一方で、有価証券担保の場合は有価証券の種類や有価証券の発行体の信用力によって、担保評価が大きく異なります。

国債

国債は発行体が日本政府であり、政府が破綻しない限りは償還されます。また、市場だけではなく、銀行同士でもさかんに取引をしているものですので、信用力・流動性がともに高く、有価証券担保として最も評価が高いものになります。銀行にもよりますが、国債は額面価格の90%程度の担保評価となることが多く、これは不動産担保よりも担保評価が高いことを意味します。

社債

社債の場合は発行体である企業の信用力に依存します。最近ではソフトバンクグループのように大企業であっても社債で資金調達をする企業が増えています。大企業の社債は信用力・流動性がともに高く、換金性が高いので、80%程度の担保評価となることが一般的です。一方で、中小企業や未上場企業の場合は信用力・流動性ともに劣るので担保としては評価されないでしょう。

株式

株式も社債同様に発行体である企業の信用力に依存します。株式発行は企業の伝統的な資金調達手段であり、多く流通しているので有価証券担保として利用しやすいです。東証一部の上場企業であれば、市場での取引も盛んであり、換金性が高いため、流動性が高くなります。そのため、上場企業の株式は額面の60~80%程度の担保評価となることが多いようです。一方で、中小企業や未上場企業の株式の場合は、信用力・流動性ともに劣るので担保として評価されないでしょう。

手形・小切手

約束手形や小切手も担保とすることができますが、案件によって担保評価は異なります。中小企業の場合は取引先も中小企業や非上場企業であることが多く、この場合は信用力・流動性が低いので、担保評価は著しく低下します。手形の場合は担保の用に供するよりも手形割引という形で融資を受けることの方が多いようです。

有価証券担保と不動産担保はどちらを担保にすべきか

有価証券の場合は、不動産と比べて単価が低く、ある程度まとめて担保の用に供さないと、担保評価価格は高まりません。したがって、長期で高額融資を受ける場合は、不動産担保の方が有利といえるでしょう。一方で、比較的短期で少額の融資の場合には、金利を下げる目的などで有価証券担保を利用する方がお手軽といえるでしょう。担保に供する場合は、このような使い分けを念頭に置きましょう。

評価の高い有価証券のポイント

銀行からの評価の高い有価証券のポイントは以下の3点です。

流動性が高いか

流動性とは「どのくらい換金しやすいか」ということを意味します。銀行はこの流動性をもとに担保評価を決めています。上場されているかや発行体によって流動性は異なります。一般的に国債や上場企業の株式は流動性が高いと言われています。

相場の変動が小さいか

相場の変動が小さい方が価値が安定しており、担保として認められやすい傾向にあります。一般的には株式よりも国債や地方債、社債などの債券の方が価格の変動幅は小さくなります。一方で、株式は決算期の業績や企業に関する突発的なスキャンダルなどで株価が変動します。株価の変動が大きい株式は債券に比べて、銀行の担保評価は低く設定されます。

発行体の信用力があるか

発行体の信用力は担保の重要なポイントです。最も信用力があるのは国債を発行している日本政府です。日本政府が破綻しない限りは国債は償還されますので、信用力が最も高いと言えます。株式の場合は発行体の企業規模や業績によって異なります。

有価証券担保の担保設定の流れ

それでは具体的にどのような流れで有価証券担保を設定するのでしょうか?
株式を例にして具体的な流れを確認しましょう。

ステップ① 質権の設定

質権の設定方法は株券を発行しているかどうかによって異なります。株券を発行している場合には企業と銀行との間で担保設定について合意し、株券を銀行に差し入れる必要があります。証券会社の預り証や証明書では不十分ですので、注意してください。

一方で、株券を発行していない株式会社もあります。その場合には企業と銀行の間で株式に質権を設定するという合意をして、合意の証として担保差入証を銀行に提出すれば、質権は有効に成立します。

ステップ② 対抗要件の具備

不動産の場合は登記が第三者に対する対抗要件ですが、株式の場合は登記がありません。株式の場合は株券の発行の有無によって異なります。株券を発行している場合には株券を銀行に差し入れることで対抗要件が具備されます。

一方で、株券を発行していない場合は、株式の発行体の株主名簿に質権者である銀行の名称と住所を記載することで対抗要件を具備します。こちらについては会社法147条1項に規定されています。

今回はここまで。
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