起業家に伝えたい大切なこと

自社株を資金のない経営幹部に引き渡す方法

起業家バンク事務局

事業承継の際に最も有力な後継者候補は、「自身の子供」といえるでしょう。子供への承継は自社の従業員や取引先などから理解を得やすく周囲の同意を得ながら、円滑な承継が可能となります。

しかし、子供の同意が得られないといった理由から親族内承継を断念するケースも増えています。親族内承継が難しい場合は、事業に精通している役員などの経営幹部が有力な後継者となります。

しかし、経営幹部が事業を承継する場合は、今の経営者が保有している自社株を買い取るための資金を調達する必要があります。この場合、後継者となる経営幹部に十分な資金があるかどうかが非常に大きな問題となります

経営幹部への事業承継が難しい理由

経営幹部への事業承継が難しい理由は、自社株の評価が高いことにあります。
東京商工会議所が平成30年1月に実施した事業承継の実態に関するアンケート調査によれば、「自社株の評価額が承継の障害・課題と感じているか」という問いに対して、52%の経営者が「事業承継の障害・課題と感じている」と回答しています。

自社株の評価が高いと、後継者が自社株を買い取る際に負担が大きくなります。また、東京商工リサーチが平成29年3月に実施した「平成28年度中小企業・小規模事業者の事業承継に関する調査」によれば、後継者に望む自社株保有の割合について、以下のような回答が得られています。

1/2以上…62.0%
一部保有していればよい…22.7%
必ずしも保有する必要はない…5.9%
わからない…9.4%

このように大半の経営者は後継者に1/2以上の株式の承継を望んでいますが、その場合に自社株の評価額が高いと後継者の買取の負担が大きくなります。特に非上場会社の株式は通常、内部留保の蓄積によって純資産価額が高くなり、評価額が資本金の何十倍となる場合もあります。例えば、設立当時に1,000万円(1株50円×20万株)の資本金で会社を設立したとしても、内部留保の蓄積で評価額が6億円(1株あたりの評価額3,000円×20万株)となる事例もあります。

経営幹部に自社株を引き渡す方法

以下では具体的に経営幹部に自社株を引き渡す方法について解説します。

方法1 自社株の評価額を下げる

自社株の買取資金が十分でない経営幹部が後継者となる場合に最初に検討すべきは、自社株の評価額を下げることです。実際に役員や従業員が後継者となる場合、自社株の評価額が高く買取資金を準備できないという理由で断念するケースがあります。

自社株の評価方法

一般に自社株の評価額は会社の業績によって事業年度ごとに上下します。自社株の評価額の計算方法は主に①類似業種比準価額と②純資産価額の2つがあります。

類似業種比準価額=類似業種の株価×(配当+利益+純資産)/斟酌率
純資産価額=(純資産価額-含み益に対する37%)/発行済株式総数(自己株式を除く)

したがって、会社の配当、利益、純資産が変動すると自社株の評価額も変わります。業績が好調で自社株の評価額が高い時期に承継しないように注意しましょう。

自社株の評価を下げる方法

自社株の評価額を下げる方法は主に2つあります。
1つ目は、役員退職金を支給する方法です。上記のように会社の利益や純資産は株価に影響を及ぼします。現経営者が退職する際に退職金を支給し、その額が損金算入された場合は会社の利益が減少します。加えて、内部留保(純資産)も減少するため、結果として自社株の評価額が低くなる可能性があります。
2つ目は含み損のある資産を売却することです。購入時の価額に比べて現在の時価が下がっている含み損を抱えている不動産や有価証券を売却・買換をした場合、簿価との差額が損失として計上されます。例えば、会社所有の不動産の購入時の簿価が6億円、売却時の時価が2億円だとすると差額の4億円が損失計上されます。この結果、利益と簿価純資産が減少し、自社株の評価額が低くなる可能性があります。

方法2 資産管理会社の活用

経営幹部に事業承継する際に問題となるのが、後継者となる幹部の資力です。後継者は現経営者から自社株を買い取る必要がありますが、自社株の評価額によっては非常に多くの資金が必要となります。ここで、役員が個人で資金を調達して、現経営者から自社株をすべて買い取ることは現実的な選択肢とはいえません

ここで、後継者が資産管理会社を設立し、資産管理会社が現経営者から株式を買い取るという方法を検討することができます。資産管理会社の本来の目的は資産の集約です。現経営者が保有する事業用資産を資産管理会社が買い取ることで相続などに伴う資産の分散を防ぐことが期待されます。この資産管理会社は資力の十分ではない後継者が事業を承継する際にも活用できます。

仮に、経営幹部が個人で自社株買取の資金を金融機関から調達する場合、金融機関は後継者個人の信用力を審査して融資の是非を判断します。つまり、個人の職業、収入、資産などが融資審査の可否に影響するのです。

一方、資産管理会社の場合は、同社の財務状況や業績などが審査対象です。資産管理会社の主な収益源は自社株の配当であり、資産は事業用の資産となります。したがって、経営幹部個人の財務状況ではなく、資産管理会社に十分な資力があり、返済が可能だと判断されれば自社株を買い取るための資金調達が可能となるのです

方法3 自社株の生前贈与

生前贈与とは、現経営者から後継者となる経営幹部に自社株を移転する方法です。いつ起こるかわからない相続よりも、贈与により後継者へ移転させる方法は確実です。譲渡の場合は後継者に買い取る資金が必要ですが、贈与を利用すれば資金調達の必要がありません。贈与税は直系尊属から20歳以上の者に対する場合を除くと以下の税率になります(2021年12月時点)。

100万円…0万円(0%)
200万円…9万円(4.5%)
300万円…19万円(6.3%)
500万円…53万円(10.6%)
1,000万円…231万円(23.1%)
3,000万円…1,195万円(39.8%)
5,000万円…2,290万円(45.8%)
1億円…5,040万円(50.4%)

一度に1億円以上の贈与を実施すると50%以上の贈与税が課税されますが、少額の贈与を毎年繰り返すことによって、贈与税を抑えつつ自社株の移転が可能です。ただし、この場合は定額贈与とみなされないために注意が必要です。定額贈与とみなされると贈与した金額の合計額に対して贈与税が課税されます。したがって、①毎年違う時期に違う金額の贈与を行う②110万円以上の贈与を実施し、税務署に報告する③贈与契約書を作成する、などの対策が必要になります

事業承継税制を活用しよう

上記のように毎年100~200万円の自社株を少額ずつ後継者に贈与する方法もありますが、より大きな金額を後継者に一回で贈与できる方法が望ましいです。そこで活用したいのが事業承継税制です。

事業承継税制とは

事業承継税制とは、非上場株式を相続もしくは遺贈(または贈与)により取得した際に一定の要件を満たせば、その株式にかかる相続税(または贈与税)の納税が猶予される制度です。2018年の税制改正によって、事業承継に伴う非上場株式の贈与税・相続税の納税猶予制度について要件が大幅に緩和・拡充されており、取得した全株式が納税猶予の対象株式となり、納税猶予の金額も自社株に係る相続税等の100%相当となっています。

税制というと親族間の資金の移動を支援する制度というイメージがありますが、この制度は親族を後継者とする事業承継のみならず、親族外への贈与や遺贈においても適用が可能ですので、非常に使い勝手が良くなっています。この特例制度は2018年1月1日から2027年12月31日までの限定措置となっていますので、経営幹部への事業承継を検討している場合は可能な限り早期に対策をとることをおすすめします

事業承継税制を適用するための要件

事業承継税制を利用するにあたり特に注意したいのは、次の「後継者の要件」である役員就任要件です。役員就任から3年以上経過している必要がありますので、計画的に経営幹部に任命しておきましょう。

会社の要件

非上場企業である
事業承継法上の「中小企業者」に該当する
資産管理会社ではない(したがって、不動産賃貸業は適用が難しい)
医療法人や風俗営業会社ではない
総収入金額および従業員数が1以上

先代経営者の要件

贈与・相続の直前で会社の代表者であった
事業承継前に一族で50%を超える議決権を保有していた
事業承継前に一族で筆頭株主であった
代表を退任している・いた(贈与の場合)

後継者の要件

贈与・相続後に会社の代表者である
同族の者を含めて50%を超える議決権を保有している
一族で筆頭株主である
少なくとも総議決権数の10%を保有している
20歳以上である
贈与時点で役員就任から3年以上が経過している

事業承継税制の納税猶予の取消条件

下記の条件抵触すると納税義務が生じますので注意が必要です。

5年以内

後継者が代表者をやめた
後継者が筆頭株主ではなくなった
同族の者を含めた議決権割合が50%を下回った
株式を売却した(一部でも取消)
事業を停止した
毎年の届出を怠った

5年経過後

承継の対象となった株式を売却した
事業を停止した
3年毎の届出を怠った

自社株は移転は早期に検討を

従業員承継を決定した場合、まず最初に検討するのが自社株の評価額を下げることだと思います。その次に資産管理会社の活用や事業承継税制など移転の手段について考えることになります。また、非常に有効な方法である事業承継税制は期限措置となっていますので、早い段階で顧問税理士や外部のコンサルタントに相談して、準備をしましょう。

今回はここまで。
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