起業家に伝えたい大切なこと

会社や事業の売却を考えている人へ|会社売却のポイント

メガバンカー takuo

2021.12.07

日本では1999年以降に中小企業数は減少を続けており、特に廃業の割合が増加しています。背景には中小企業の経営者の高齢化と後継者不足があり、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に上ると言われています。

後継者不足の解決策としてM&Aによって会社を売却する経営者が増えている一方、会社を売却した場合の従業員の処遇などについて不安を抱いている経営者の方が増えています。この記事では会社を売却するときのメリットやデメリット、さらには基本的な流れについて解説しています。会社や事業の売却を検討している経営者の方はぜひ参考にしてください

会社売却とは

会社売却とは、会社の所有権を第三者に売却することで対価を得ることです。会社売却のスキームとしては、①過半数また株式の全部を買い手に売却することで会社全体を売却する株式譲渡、②複数展開している会社の事業のうち、1つまたは複数を売却する事業譲渡があります。

従来、会社売却を行う理由としては、事業の選択と集中、売却益の獲得、大企業の傘下に入ることによる経営の安定化などでしたが、最近では事業承継による会社売却が増えています。東京商工リサーチが公表している「2020年・後継者不在率調査」によれば、2020年時点で後継者が決まっていない会社は57.5%に上ります。また、毎年約5万社が後継者不足を理由に廃業しています。

後継者不足に直面する中小企業の経営者には会社売却か廃業の選択肢しかありません。廃業すると従業員が失業したり、取引先に迷惑をかけることになります。したがって、多くの経営者は廃業するよりも会社売却を選びます。会社売却を検討する際は、売却によって得られるメリットやデメリットについて慎重に考慮しなければなりません

会社を売却するメリット

中小企業の経営者にとって会社を売却するという決断は大変なことです。特に創業者である経営者にとっては非常に難しい決断といえるでしょう。それでは、その決断をしてまで得られる会社売却のメリットはどこにあるのでしょうか?

一般的に会社を売却するメリットは以下のとおりです。

メリット1 売却利益を得られる

売却益を得られることが最も分かりやすいメリットです。一般的に、会社自体を売却する場合には過半数また株式の全部を買い手に売却しますが、株式譲渡の対価として譲渡益を得られます。

自社株の価値は株価×発行済株式総数で計算されます。株価の計算方法には類似業種比準方式と純資産価額方式があり、類似業種比準方式では配当、利益、純資産が大きいほど株価が大きくなります。純資産価額方式の場合は純資産がそのまま自社株の価値になります。したがって、30年前に資本金500万円で創業し、その後利益が蓄積されて、純資産が1億円程度ある場合には1億円程度の売却益が見込めます。

中小企業の場合は経営者が自社株の100%を保有している場合も多いので、その場合は譲渡益がそのまま経営者の利益となります。また、経営者以外の創業者や株主が株式を保有している場合には保有割合によって売却益を得られます。

メリット2 個人保証や連帯保証から解放される

中小企業の場合、銀行からのプロパー融資によって資金調達を行うのが一般的ですが、融資を受ける際に経営者や創業者が会社の連帯保証人になるのが一般的です。連帯保証人ですから、会社が負債を返済できければ、経営者や創業者に返済の義務があります。しかし、会社を第三者に売却する場合は、買い手企業が債務を引き継ぐのが一般的であるため、会社が負債を返済できない場合の連帯保証義務から解放されることになります。

メリット3 廃業の危機を避けられる

会社に負債がある場合でも株式譲渡のスキームを利用すれば、負債ごと買い手に譲り受けてもらうことができます。また、事業譲渡の場合は現金化できる部門のみ売却することで売却益を負債の返済に充当し、財務状況を健全にした後に主力事業や新規事業に投資を行うことができます。

また、中小企業の多くが悩まされている後継者不足に関して、会社の売却ができない場合には廃業するしかありません。廃業した場合には従業員の雇用は失われ、取引先は販売先を失い連鎖倒産するケースもあります。しかし、廃業ではなく売却を選択することで従業員の雇用や取引先との取引の継続も可能になります。

メリット4 買い手企業とのシナジー効果が期待できる

シナジー効果とは、企業同士の事業連携や協業、企業の事業が協働することで得られる相乗効果を指します。買い手企業と売り手企業の経営資源を組み合わせることにより、事業上のシナジーや先方の資金力などと化学反応が起き、単なる総和ではなく、総和以上の効果を生み出すことを意味します。

例えば、優れた商品やサービスを提供している一方で、営業活動が得意ではない企業が営業力に定評のある買い手企業に売却されることで売上を伸ばすことができます。消費者にとっても優れた商品やサービスを享受することができるため、買い手・売り手・消費者にとってベストな結果となります。

会社を売却するデメリット

会社を売却することによって、売却益の獲得や連帯保証からの解放など様々なメリットを享受できる一方で、会社売却にもデメリットがあります。経営者としては売却前にデメリットや留意点について理解した上で売却の可否を判断しましょう。一般的なデメリットは以下のとおりです。

デメリット1 競業避止義務がある

一般的に競業避止義務とは従業員に対して課されるものであり、入社時の誓約や就業規則に含まれる競業禁止特約によって定められ、所属する企業の不利益となる競業行為を禁ずるものです。会社を売却する際に譲渡企業に競業避止義務を課す規定が設けられることがあります。

つまり、会社を売却した後は一定期間、売却した事業領域において新しく起業したり、他社で事業に関与することができなくなります。これは買い手企業の利益を守るために設けられる規定です。売却した事業に関する知識とノウハウを持つ売り手が再び同じ事業領域に参入してくると、買い手にとって買収効果を危うくする脅威となるからです。

期間は合意によって決まりますが、2~3年が一般的です。また、関与の度合いについても単に起業を禁止するものから、他社で役員や従業員としてノウハウや知識の提供を禁じるもの、さらには同じ事業領域の企業の株主や顧問になるのを禁じるものなど様々です。

デメリット2 売却後、出社義務が免れない

買い手企業との契約によりますが、会社を売却した後も同社の社長として勤務しなければならないなど拘束されるケースもあります。買い手企業が会社を購入する目的は新規事業の開拓が主ですが、買い手企業は事業に関して知識やノウハウを持っていないことが多く、これまで会社を運営してきた経営者の助けが必要になります。これは「ロックアップ(キーマン条項)」と呼ばれるものであり、買収後も一定期間は前経営陣に引き続き経営を任せるこによって経営の安定を図り、企業価値の下落を防ぐことを目的としています。

また、ロックアップが契約にない場合でも会社売却後の手続のために会社にとどまることがあります。例えば、従業員との雇用契約を見直したり、取引先と売買契約を見直す必要があります。その事業にかかわる契約が多ければ多いほど、手続きが完了するまでに多くの時間がかかります。経営者としては会社の売却後に新しく事業を開始したり、他社で新しいキャリアを築きたいと考えているかもしれませんが、これらの拘束によって、その後のプランが阻害される可能性があります。

デメリット3 人生に対するモチベーション低下

会社売却後に会社にとどまり子会社の社長として勤務する方や新しいキャリアを築く方もいますが、経営から離れる場合は、経営者の方のモチベーションが低下すると言われています。特に創業者の場合は長い期間をかけて育ててきた事業を売却して人生のやりがいを失ってしまったり、これまでのように社員から社長と呼ばれることがなくなり、寂しい思いをする方もいます。このような人生に対するモチベーションの低下から抜け出すために、なかには給与0円ながら、会長職としてとどまったという方までいます。

会社売却のポイント

会社を売却するメリットとデメリットを理解したうえで、相場より高く売るポイントとしては、以下の点が考えられます。

・適切なタイミングで会社を売却する
・自社の強みと弱みを把握する
・自社の規模・業種・地域において実績のあるM&A仲介会社に相談する
・事業のシナジー効果のある買い手企業に売却する
・財務体質を改善しておく
・収益力を向上させておく

特に重要なのは実績のある仲介会社に相談する点です。会社の売却には財務や法務、税務など幅広い分野について専門的な知識が必要です。M&A仲介会社であれば、会社売却について専門的な知識を持っていますし、幅広いネットワークを活かして買い手企業を探すことができます。さらに会社売却のプロとして少しでも高く会社を売却する方法を教えてくれます。M&A仲介会社はピンからキリまであるので、直接取り合わせを行って、自社の規模・業種・地域において実績のあるM&A仲介会社に相談するようにしましょう。

今回はここまで。
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この記事を書いた人

メガバンカー takuo

某メガバンクに勤務していたバンカー。窓口業務・融資・資産承継・事業承継など、あらゆる仕事でハイレベルな実績を残す。起業家や経営者の成功を願い、現役のときには話せなかった独自のノウハウを紹介する。

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