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事業承継時の納税が免除される新事業承継税制の要件

メガバンカー takuo

2022.08.08

経営者にとって次世代への事業承継は大きな悩みの一つです。事業承継時には親族や従業員などの後継者が自社株を承継することになりますが、会社の業績が良ければ良いほど1株当たりの評価額が高くなり、結果として相続税または贈与税が大きな負担となってしまいます。この税負担が現経営者から後継者への円滑な事業承継の障害となっていました。このような中小企業の経営者の声に応える形で、中小企業の事業承継時における税負担を軽減するために設けられたのが「事業承継税制」となります。

経営承継円滑化法と事業承継税制

そもそも事業承継税制は平成20年に施行された「中小企業における経営の承継に円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」に基づいて創設された制度です。経営承継円滑化法によって事業承継税制が創設されたほか、民法の特例、金融支援の3つが法律として制度化されました。今回はこの中の事業承継税制について解説いたします。

事業承継税制の概要

事業承継税制を利用する最大のメリットは、事業承継時の税負担がゼロになるという点です。これまでは経営者から自社株を次の世代の後継者が承継するとき、後継者に相続税や贈与税がかかっており、後継者にとって多額の税負担となっていました。事業承継税制を利用することでこれらの税金が免除(特別措置では納税猶予)となります。

事業承継税制(一般措置)

従来の事業承継税制である一般措置は主に2つの納税優遇制度によって構成されています。それぞれ相続税と贈与税の優遇制度です。

相続税の納税優遇制度

事業承継によって後継者が本来納付する相続税のうち、相続等によって取得した非上場株式等について課税価額の80%に対応する額が納税猶予されるという制度です。「免除」ではなく「納税猶予」であるという点に注意が必要です。

贈与税の納税優遇制度

事業承継によって後継者が本来納付する贈与税のうち、贈与等によって取得した非上場株式等について課税価額の100%(全額)に対応する額が納税猶予されるという制度です。相続税同様に「免除」ではなく「納税猶予」であるという点に注意が必要です。

活用しにくい事業承継税制(一般措置)

上記の一般措置は創設当初から非常に使いにくいと言われており、制度が創設されてから10年以上経過してもほとんど利用されてきませんでした。というのも上記の措置を受けるためには、次の7つの要件を満たす必要があるからです。

①一定期限までに都道府県知事の認定を受けること
②先代経営者は会社の代表権を有し、かつ事業承継の直前に議決権の50%超を保有していること
③後継者が一定時期において会社の代表権を有し、議決権の過半数を保有していること
④会社が非上場の中小企業であること
⑤会社の総収入額及び従業員がゼロではないこと
⑥風俗営業会社や資産管理会社でないこと
⑦猶予金額に見合う担保を提供すること

さらに、相続発生後5年間は雇用の80%以上を維持する必要があり、この要件を欠くと認定が取り消され、納税猶予されていた税金を支払う必要があります。しかし、コロナショックのような緊急事態が起きることも想定されるので、5年もの間、雇用を8割維持するというのはかなりハードルが難しいです。

一般措置の複雑さ故に活用事例が少ない実態を踏まえて、2018年1月1日より一般措置を大きく条件を緩和して、さらに税金の恩恵も大きくした形で始まったのが新事業承継税制と呼ばれる措置です。こちらの措置は2027年までの期間限定で設けられており、現在は非常に使いやすくなっています

新事業承継税制(特例措置)

一般措置と特例措置の違い

「納税猶予」ではなく「全額免除」になる

一般措置が「納税猶予」であったのに対して、特例措置では「全額免除」という大きな違いがあります。簡単に言うと会社の株式の贈与又は相続の際に本来かかる贈与税や相続税を最終的に全額免除するという太っ腹な制度となりました。

株式保有者3名からの承継が対象になる

一般措置では1人の先代経営者から1人の後継者へ相続もしくは贈与される場合のみが対象となっていました。つまり、自社株の税負担の軽減は、あくまで先代経営者と後継者の1対1の関係内の話にすぎませんでした。しかし、2018年の改正以後は、親族外を含む複数の株式保有者から、最大3名までの代表者である後継者への承継も対象に加わりました。つまり、特例が認められると、先代経営者から後継者に対する贈与だけではなく、それ以外の少数株主からの贈与も非課税になります。したがって、例えば一家の中で経営者たる父が大株主で母と長男も一定の割合の株式を保有しており、次期後継者である次男に株式を集約する場合、経営者である父からだけではなく、母や長男からの贈与についても税金がかからなくなります。中小企業の経営の現状に則した制度になので、自社株の評価額が高い場合には非常にありがたい制度となります。

新事業承継税制の適用要件

新事業承継税制の適用要件は一般措置と比べて、かなり緩和されました。適用要件は5つあるので、順番に解説していきます。

適用要件1 会社の要件

まず、「中小企業者であること」が必要となります。中小企業者の基準は、業種ごとに定められた資本金と従業員数の基準があり、資本金または従業員数のどちらかの要件を満たせばOKです。業種ごとの基準については経営承継円滑化法の第2条に記載があります。なお、資本金の金額は少なくすることが可能なので、減資をすれば、現在基準を超えていても中小企業者になることが可能です。

また、「上場会社及び風俗営業会社でないこと」、「従業員が1人以上いること」、「資産保有等会社に該当しないこと」も要件となっています。資産保有等会社とは、地主の方や複数の不動産を所有されている方が相続対策の一環として不動産の所有をすべて法人にしたときの会社となります。このような「事業の実態」のない会社には事業承継税制は活用できません。

適用要件2 先代経営者の要件

先代経営者の要件として、「以前、会社の代表者であったこと」と「会社の筆頭株主であること」の2つを満たさなければなりません。特に後者については事業承継時に筆頭株主であることが必要になります。前者に関しては事業承継時に会社の代表でなくても、以前会社の代表であった経験があれば大丈夫です。つまり、「もともと会社の代表であって、事業承継時は代表ではないが筆頭株主である」という条件を満たせば大丈夫です。

適用要件3 後継者の要件

後継者の要件として、「会社の代表者に就任すること」や「会社の筆頭株主になること」などの要件があります。つまり、先代経営者から株式の贈与を受けて、筆頭株主になることが最低条件となります。このほか、先代経営者の死亡時(相続の場合)と生前贈与の場合とで、後継者の要件が若干異なります。

相続で活用する場合、後継者は「相続開始の直前において役員であり、相続開始から5ヶ月後に代表者であること」という要件が追加されます。ここでポイントなのは相続で活用する場合には「相続開始時点で役員であること」が必要である点です。つまり、新事業承継制度を使おうか迷っているうちに先代経営者が亡くなった時に後継者が役員でなかった場合にはこの制度は使えません。したがって、制度の利用を検討しているのであれば、早めに役員に就任させておくことが重要です。

生前贈与で活用する場合、後継者は「贈与時に20歳以上、贈与の直前において3年以上役員であり、かつ代表であること」という要件が追加されます。ここでポイントなのは贈与の直前に「贈与前から3年以上役員であること」が必要である点です。もし、制度を利用したいのであれば、逆算して利用したいときから3年以上前に後継者を役員に就任させる必要があります。

適用要件4 承継してから5年間、会社を維持すること

上記の適用要件1~3までの要件を満たすと、事業承継税制の認定を受けることが出来ます。認定を受けた後、会社を承継した後継者は、「承継してから最低でも5年間は会社を経営すること」が必要です。具体的には5年の間、「後継者が会社の後継者で有り続けること」、「後継者が筆頭株主で有り続けること」、「「承継の対象となった株を1株たりとも手放さないこと」といったルールを満たす必要があります。

適用要件5 後継者がさらに次の後継者に事業承継をすること

ここまで見てきたのは、先代経営者から後継者に自社株を相続した際に後継者が会社の経営を続ければ、本来かかる相続税や贈与税を支払わなくてよいというものでした。これは未だ納税を猶予されている状態です。この猶予が最終的に免除になるためには、「承継した者の次の後継者(先代経営者からみて3代目)に事業承継をすること」が要件となります。

この話を聞くとオーナー社長の反応は2つに分かれます。「自分が1代目なのに3代目のことなんか分かるはずがない。これは使いづらい制度だ」と難色を示される方と「うちの会社が2代目で潰れることはまずないだろう。少なくとも3代目までは続くと思うから大丈夫だ」という反応です。

ちなみに、1代目から2代目への事業承継を検討している際に3代目を決める必要はありません(未定でも問題ありません)。しかし、あくまで2代目の方は3代目に事業承継するまでは納税が猶予されている状態であり、免除はされていません。猶予から免除までのステップとして、この最後の要件を満たせば、正式に免除となります。したがって、2代目の方が事業売却(M&A等)によって会社を手放すと他の要件を満たしていても、猶予されている税金を支払う必要があります。ただし、納税猶予されている税金が1億円で、事業売却を行った場合に2代目に入ってきた額が1千万円の場合には、差額の9千万円分は免除となります。

新事業承継制度を活用して税負担を減らそう

新事業承継制度は2代目から3代目への事業承継が完了した段階で税金が免除になりますので、かなり長期的な計画となります。長いというだけで抵抗を感じられる方もいらっしゃいますが、節税効果を魅力に感じて、利用される事業者様は増えています。結局納税が猶予されるだけで免除にはならないとネガティブに考える方もいらっしゃいますが、制度を正しく理解すれば税金の免除効果の大きさに気がつくと思います。事業承継を予定している方は、新事業承継制度も合わせて検討しましょう。

 

今回はここまで。
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この記事を書いた人

メガバンカー takuo

某メガバンクに勤務していたバンカー。窓口業務・融資・資産承継・事業承継など、あらゆる仕事でハイレベルな実績を残す。起業家や経営者の成功を願い、現役のときには話せなかった独自のノウハウを紹介する。

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