法人設立前に融資を受けられない理由
日本政策金融公庫をはじめ、法人設立前に金融機関から融資を受けることはできません。これは創業のときも、法人成り(法人化)するときも同じです。なぜ、法人設立前に融資を受けることができないのか、また、法人設立前に融資を受けたい場合はどうすればいいか、この記事で解説します。
法人設立前に融資を受けられない理由
法人設立前に融資を受けられない主な理由として、次の3つを紹介します。
資本金と借入金が混在させないため
最も大きな理由は、資本金と借入金が混在するのを防ぐためです。企業の所有者(株主)が提供する資金は自己資本とよばれ、決算書の「資本の部」に計上され返済義務がありません。一方、借入金は他己資本と呼ばれ、決算書の「負債の部」に計上され返済義務があります。
企業会計原則には、「資本・利益区別の原則」という大原則があり、資本取引と損益取引を区別しなければならないルールがあります。つまり、資本取引と損益取引は明確に区別しなければならないというもので、資本金の取引と借入金の取引を混同させてはならないのです。法人設立前に融資をしてしまうと、企業会計に詳しくない経営者が、借入金を資本金として登記してしまう恐れがあるため、金融機関は法人設立前の融資は行わないのです。
会社の事業目的を確認したいため
ほとんどの業種は金融機関の融資対象となりますが、一部の業種は金融機関の融資対象となりません。たとえば、金融関連業種、風俗関連業種、ギャンブル関連業種などです。これらの業種が会社の事業目的として登記されている場合、金融機関は融資を行うことができません。法人設立前に融資を実行してしまうと、融資後に設立した法人が、これらの業種を事業目的として登記する恐れがあります。それを避けるため、法人設立前に融資をすることはできないのです。
債務引受の手続きが面倒であるため
法人設立前に融資を実行してしまうと、法人を設立したときに、債務引受という手続きを行わなければなりません。つまり、個人に貸付した融資を、新たに設立した法人に引き受けてもらう手続きとなります。この債務引受は、融資契約とは別の新たな契約となり、金融機関にとっても相応の事務負担が発生します。
法人設立前に融資を実行してしまうと、必然的に債務引受という面倒な手続きを発生させることになります。そのため、業務効率化の観点からも、法人設立前に融資を行うことはしません。
法人設立前に融資を受けたい場合
物件を早めに抑えたい、保証金を先に支払いたいなど、どうしても融資を先に受けたいというケースもあるでしょう。その場合、結論からいうと、法人を設立予定であることを金融機関に内緒にしておくしかありません。
すなわち、個人事業主として融資を受け、借入金を資本金として登記しないように細心の注意を払って法人を設立し、金融機関に債務引受手続きを依頼することになります。なお、借入金を資本金として登記してしまうと、負債の部と資本の部の両方に資金が計上されるため、決算書に異常値が発生してしまいます。異常値のある決算書は金融機関が見ればすぐに分かるので、その後の取引にも影響が出てしまうかもしれません。
まとめ
法人設立前に融資を受けることはできないので、どうしても先に融資を受けたい場合は、個人事業主として借入を行いましょう。法人成りに限らず、健全な決算書の作成のためには、資本金と借入金を混同しないことが不可欠であり、経営者はこの点を常に意識して財務管理を行う必要があります。